世界の株式市場において、人工知能(AI)の急速な需要拡大を背景とした歴史的な地殻変動が起きています。2026年春、台湾と韓国の株式市場の時価総額が、欧州最大規模を誇る英国や主要7カ国(G7)のカナダを初めて上回りました。さらに、経済成長期待から新興国市場の寵児とされてきたインドをも抜き去り、台湾と韓国の時価総額はそれぞれ5兆ドル(約800兆円)を突破しています。時価総額ランキングにおいて、インドはわずか2週間で台湾と韓国に立て続けに抜かれ、世界第7位へと後退しました。世界的にAI関連株へのマネーの一極集中が鮮明になるなか、台湾・韓国の台頭とインドの苦境という明暗がくっきりと分かれています。
AI特需に沸く台湾・韓国と波及効果
台湾と韓国の株式市場を牽引しているのは、米国の大規模クラウド事業者を中心としたAI関連の設備投資急増による恩恵です。ゴールドマン・サックスの推計によれば、データセンター向け設備投資の約60〜70%を占めるAIサーバーやストレージなどのほぼすべてがアジアで製造されています。
台湾市場では、時価総額の約4割を占める半導体受託製造最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が中核となっています。米エヌビディアなどの最先端半導体の大半を生産するTSMCの株価は年初から56%上昇しました。さらに、米グーグルのAI向け半導体設計を受託したとされる聯発科技(メディアテック)が年初から3.2倍に高騰したほか、AIサーバー関連を手掛ける台達電子工業(デルタ電子)、鴻海精密工業、広達電脳(クワンタ)なども軒並み急上昇しています。
韓国市場においても同様に、時価総額の5割を占めるサムスン電子とSKハイニックスの半導体メモリー大手2社が相場を牽引しています。AIの駆動に不可欠な「広帯域メモリー(HBM)」の出荷増に加え、HBMへの生産シフトに伴う通常のメモリー価格の上昇が業績を大きく押し上げており、SKハイニックスの株価は年初から3.6倍に達しています。こうした資金流入は台湾や韓国にとどまらず、TSMCのサプライヤーである日本企業への波及効果も生んでおり、日経平均株価の最高値更新の原動力にもなっています。
インド市場を襲う「三重苦」
一方、時価総額で逆転を許したインド市場は、主に3つの逆風に直面しています。
最大の要因は、これまでインドの強みとされてきたITセクターに対するAIの代替懸念です。AIによるプログラミング等の業務効率化が進むことで、主要顧客である欧米の製造業や金融機関からのIT人材・業務需要が低迷すると見込まれています。このため、主要IT株は年初から20〜30%程度の大幅な下落を記録し、外国人投資家によるポジション調整の売りが相次いでいます。
第二の要因は地政学的リスクです。米国とイランの軍事衝突によるホルムズ海峡の実質的な封鎖懸念から原油価格が急騰しました。中東産原油への依存度が高いインドにおいては、貿易収支の悪化やインフレ加速への警戒からルピー相場が下落し、内需株や自動車関連株などにも売り圧力が強まっています。
第三に、米国におけるプライベート・クレジット関連の信用不安がインドの金融セクターに波及し、主力の銀行株やノンバンク株の下押し圧力となっていることも重石となっています。
これらの悪材料が重なり、外国人投資家によるインド株からの資金引き揚げは過去最大のペースで進んでおり、主要株価指数におけるインド株のシェアもピーク時の21%から12.3%へと急縮小しています。
市場の死角とインド逆襲のシナリオ
しかし、足元の明暗が今後も永続するとは限りません。台湾と韓国の株式市場は、少数の半導体関連銘柄に時価総額の多くを依存しているため、海外市場の動向に対して極めて脆弱という弱点があります。実際、米国の半導体株が時間外取引で急落した際や、中東の地政学リスクが意識された局面では、台湾・韓国ともに主力の半導体株が売られ、相場が乱高下する場面も散見されています。
インド市場についても、過度な悲観論を疑問視する声があります。インド株式市場の出遅れは投資家センチメントの悪化による側面が大きく、実際の企業利益(予想EPS)は順調に成長する想定となっており、業績見通しに対して株価がかなり割安に放置されているとの見方もあります。
また、AI分野におけるインドの潜在能力は決して低くありません。AIエコシステムを支える電力・冷却システム・データセンターといった周辺インフラへの投資機会が豊富に存在しているほか、独自のソブリンAI開発では日本を先行しているとの指摘もあります。将来的にAIの社会実装がさらに進み、関連製品やビジネスが汎用化されるフェーズに入れば、世界最大の14億人もの人口を抱えるインド経済がその恩恵を大いに享受する可能性があります。短期的には台湾・韓国がAI相場を主導しているものの、長期的には巨大な内需と底堅い成長力を武器にしたインドの「再逆転」のシナリオも十分に考えられるでしょう。
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