インド株式市場が、再び世界の投資家からの注目を集めています。2024年9月の最高値をピークに生じた価格調整や、2026年に入ってからの中東情勢緊迫化による一時的な地政学リスクを乗り越え、市場の潮目は確実に変化しつつあります。
5カ月ぶりの「買い越し」転換とグローバルマネーの回帰
2026年3月に中東での軍事衝突が本格化して以降、原油調達の多くを輸入に頼るインド経済への不透明感から、外国投資家による資金流出が続いていました。しかし、米国とイランが戦闘終結に関する合意書を交わした6月中旬を境に、売り越しの流れが一変しました。
国立証券保管機関(NSDL)によると、外国投資家は[2026年7月にインド株を約2,020億ルピー(約3,300億円)買い越し、5カ月ぶりの買い越しに転じました。この勢いに乗る形で、代表的な株価指数であるSENSEXは8月3日に7万8,639まで上昇し、終値ベースで3カ月半ぶりの高値を更新しています。
背景にあるのは、これまで相場を主導してきた米国などのAI・半導体関連株の調整です。米国のハイテク相場が勢いを落とす中、ITセクターへの偏りが少なく、米国株との相関性が低いインド株は「有力な分散投資先」として再び買われるようになりました。海外の市場関係者も、投資家のインド株保有比率が極めて低いままであることから、さらなる流入余地は大きいと分析しています。
経済成長を牽引する巨大インフラ投資と半導体産業
インドの中長期的な経済の土台は極めて強固です。2025年度の実質GDP成長率は前年度比7.7%増と極めて高い成長を記録しました。
この成長を主導しているのが、政府による大規模な公共インフラ投資です。インフラ整備を中心とする政府の公共投資予算は過去5年で2倍近くに急増しており、2025年度には11兆ルピー、2026年度予算には過去最高の12.2兆ルピーが計上されています。
具体的な主要インフラプロジェクトの進捗は以下の通りです。ガンガー高速道路は、ガンジス川流域の594キロメートルを貫く国内最大級の道路網で、総額3,600億ルピーを投じておよそ5年でのスピード全線開通を果たしました。高速鉄道計画(ムンバイ〜アーメダバード間、約500km)は、日印共同の旗艦事業として日本が事業費の8割を円借款で支援しており、ムンバイ駅の掘削作業はすでに80%以上が完了、2027年8月の部分開業を目指しています。
半導体エコシステムでは、製造業振興策「メーク・イン・インディア」の中核として、海外の半導体大手が2026年2月にグジャラート州で半導体メモリーの生産を開始しました。政府支援を受ける全12カ所の工場のうち、年内にはさらに2カ所の新規開設が予定されています。こうした産業支援策が功を奏し、2025年4〜12月期の外国直接投資(FDI)は478億ドル(前年同期比18%増)に達するなど、実需に基づくマネーの流入が加速しています。
中央銀行の政策手腕と、インフレ・地政学リスクへの備え
一方で、高成長を続けるインド経済にも、いくつかの潜在的なリスクが存在します。インド準備銀行(中央銀行)は8月5日、政策金利(レポ金利)を5.25%に据え置くことを発表しました。4会合連続の据え置きとなり、2026年度の成長率見通しを6.7%へと上方修正したものの、警戒の手は緩めていません。
中央銀行総裁が最も警戒を寄せているのが、異常気象を引き起こす「エルニーニョ現象」です。雨期(モンスーン)における降雨不足や地域的な偏りは農業生産の減少を招き、主食である食料価格の高騰を通じて景気を下押しするリスクがあります。実際に、6月の消費者物価指数は前年同月比4.4%上昇と、インフレ圧力が加速しています。
さらに、原油や液化天然ガス(LNG)の約5割を中東からの輸入に依存している構造も頭痛の種です。5月にはインド首相が国民に在宅勤務や海外旅行の自粛を要請するほどの燃料高に直面しました。
これら外部のインフレ懸念や通貨下落圧力に対し、中央銀行はルピー買いの為替介入や通貨防衛策を徹底しています。結果、通貨ルピーは1ドル=95ルピー前後を維持し、5月に付けた最安値(96ルピー台後半)からの売り圧力に歯止めをかけることに成功しています。
国内の盤石な投資家基盤と、年内に控える「巨額IPO」
海外からのマネー回帰に先立ち、インド株相場を支え続けてきたのが、他ならぬインド国内の個人・機関投資家です。海外投資家が売り越していた期間も、国内勢の買い意欲は衰えず、2026年1〜7月期の国内投資家による買い越し額は約5兆ルピーに達しました。投信の少額積み立てプラン(SIP)の普及が著しく、国内投資家の積み立て口座数は2026年6月時点で1億516万口座を突破しています。
このように盤石な投資基盤が整う中、今後のインド市場の決定的な引き金になると期待されているのが、歴史的な規模を誇る複数の新規株式公開(IPO)の兆候です。インド最大のナショナル証券取引所(NSE)は現在上場に向けた手続きを進行中で、年内にも上場を予定しています。またインド最大財閥傘下の通信大手も、巨額の上場を計画しています。これらの巨大IPOの実現は、インド市場の規模と流動性を飛躍的に高め、帰還し始めた外国人投資家のマネーをさらに引き寄せる強力な呼び水となると市場から大いに注目されています。
まとめ
今後のインド株の見通しは、他国を圧倒するマクロ経済のGDP成長率や二桁の企業利益成長という強固な一次情報に支えられ、長期的には非常に有望であるとの見方が根強くあります。しかし、これら将来の成長期待が市場全体の高PER(株価収益率)としてすでに織り込まれている側面もあり、過去平均と比べた割高感から短期的には調整リスクも想定され得ます。
そのため、目先の割高感を背景に株価が下落する局面があれば、そこを好機と捉えた押し目買いや積立投資による分散投資の戦略なども有効な選択肢の一つになり得ると考えられます。
原油高や天候不順という短期的な不確実性を抱えつつも、インフラ・半導体分野での官民一体となった巨額の投資実績や、国内投資家の強力な資金供給力、そして歴史的な巨大IPOの控えるインド市場は、依然として魅力的です。
短期的な値動きに左右されず、中長期的な成長ストーリーを視野に入れた持続的な投資姿勢こそが、今後ますます重要となるでしょう。
