新興AIクラウドの債務不安が引き起こした「コアウィーブ・ショック」
これまで株式相場を力強くけん引してきた人工知能(AI)関連投資に対し、世界の金融市場で不透明感が急速に強まっています。発端となったのは、データセンターをAI開発企業に貸し出す「ネオクラウド」大手、米コアウィーブの信用不安です。同社株は16日、一時14%安となり、終値でも12%安と急落しました。2032年満期の社債も利回りが上昇(価格は下落)しています。同社は低格付け(ハイイールド)債市場などで資金を調達しており、S&Pグローバル・レーティングによる発行体格付けは投機的等級の「シングルBプラス」にとどまっています。
AIインフラ整備をめぐる資金調達リスクは、企業間の財務体質の差を鮮明にしています。本業で潤沢なキャッシュフローを持つ米マイクロソフトなどの巨大テック(ハイパースケーラー)は、本業の利益で利払いをどれだけ賄えるかを示す「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」が100倍を超えています。一方、豪IRENなどの新興勢は1倍を下回っています。さらにコアウィーブの「ネットDEレシオ(純負債資本倍率)」は7倍を超えており、借り換えや追加調達の際に金利が上昇すれば、利払い負担が増えやすい構造です。
AI開発企業の成長ペースにも鈍化の兆しが見られます。米アンソロピックの2026年7〜9月期の売上高は前四半期比45%増で、2倍超の伸びを記録した4〜6月期から減速しました。米大手金融機関のリポートによると、米巨大テック5社の2027年の設備投資予想は年初から8割上方修正された一方、AI関連売上高予想の引き上げは2割にとどまっています。巨額投資に見合う収益性を見極める目は厳しさを増しています。
ハイテク株・銀行株へ波及、「ブルトラップ」への警戒
AI投資の採算性への懸念は相場全体に広がりました。16日の米株式市場ではダウ工業株30種平均が175ドル安の5万2002ドル、ナスダック総合株価指数は2.14%安と大きく反落しました。主要な半導体銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は8日続落し、週間で11%安となりました。
市場関係者が警戒しているのは、ITバブル崩壊時にも見られた「ブルトラップ(強気のワナ)」の再来です。米調査会社の分析によると、2000年3月から2002年10月にかけてのITバブル崩壊局面で、SOX指数は大底に至るまでの過程で、直近安値から10%以上の反発(平均21%上昇)を31回も繰り返しながら下落基調をたどりました。一時的なショートカバー(買い戻し)などによる上昇を底打ちと誤解して買った投資家が、その後の失速で投げ売りに追い込まれるという「負の循環」が懸念されています。
金融株の弱さも警戒されています。米主要行で構成するKBW銀行株指数は10月第2週まで6週連続で下落し、2008年のリーマン・ショック以来となる長期の続落を記録しました。ただし、銀行株の下落だけで、AI関連企業の信用不安が金融システム全体に波及したとは判断できません。加えて、原油先物(WTI)の期近物が一時1バレル101ドル台後半まで上昇したことも投資家心理を冷やしました。原油高がインフレ圧力を強め、金融引き締めの長期化につながる可能性も、市場の緊張感を高めています。
日本株にも打撃、「魔の10月」の攻防
米国発の不透明感は東京株式市場にも及んでいます。10月19日の日経平均株価は一時1400円超下落しました。前週は週間で3706円(5.4%)安となり、15日には歴代3位となる3000円超の下落を記録しています。アドバンテスト、ソフトバンクグループ、東京エレクトロン、レーザーテックなど、半導体・AI関連銘柄に売りが集中しました。
10月は、1987年のブラックマンデーや、2008年の金融危機に伴う急落(日経平均は月間で24%安)が起きた「魔の月」とされています。ただし、過去に急落があった月であること自体が、今後の下落を予告するわけではありません。オプション市場では権利行使価格6万円のプット(売る権利)に大きな建玉が積み上がっています。証券会社などがプットの売り手となっている場合、相場の下落に合わせて先物売りを増やす「ガンマヘッジ」が誘発される可能性があります。こうした売りが重なれば、11月3日投開票の米中間選挙にかけて、節目の6万円を割り込むリスクも指摘されています。
「株売り・国債買い」の資金ローテーションと今後の焦点
ただし、今回の動きには、株式などのリスク資産を売り、相対的にリスクの低い国債を買う「資金ローテーション」という側面も見られます。半導体株の急落に伴うリスクオフの流れで、相対的に安全な国債が買われました。米10年物国債利回りは5.3%台から5.0%近辺まで急低下し、日本の新発10年物国債利回りも2.895%まで低下しています。
高金利の重荷が和らぐとの見方から、三井不動産などの不動産株や大成建設などの建設株、東京ガスや武田薬品工業といったディフェンシブ・内需株には買いが入り、日経平均の下げ幅を縮める役割を果たしました。FRB(米連邦準備理事会)の幹部らが早期の追加利上げ観測を和らげる見解を示したことも、株式と国債がそろって売られる「ダブル安」への懸念を抑える材料となっています。
今後の攻防のカギを握るのは、相次ぐ日米企業の7〜9月期決算です。メタ・プラットフォームズ(10月21日、米国時間)やディスコ(10月22日)などの決算で、AIの実質的な収益性と堅調な業績が確認されれば、AI投資全体への不安が和らぎ、株式市場が再び底打ち・反転に向かうシナリオも残されています。
AI関連であればなんでも買える相場から、ガイダンスで市場を納得させることができる企業への選別が進む、健全な相場への転換とも言えそうです。
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