2021年以降、規制強化や不動産セクターの債務問題、ゼロコロナ政策などが中国株式市場に影を落としていましたが、2024年に入り状況に変化の兆しが見え始めています。本記事では、中国株式市場の現状と海外投資家の動向について解説します。
中国の株式市場は、上海市場と深セン市場の2つに大別でき、それぞれの市場にはA株市場とB株市場が存在します。B株市場は海外投資家にも開放されていますが、A株市場へのアクセスは限定的でした。しかし、2014年の滬港通(上海・香港ストックコネクト)、2016年の深港通(深セン・香港ストックコネクト)の導入により、海外個人投資家もA株市場に投資できるようになりました。
B株市場は、人民元を自由化せずに外資を導入したい中国政府の方針により創設されました。海外個人投資家や海外機関投資家を対象とした市場でしたが、2001年2月からは中国国内の投資家にも開放されています。B株市場は、市場を全面開放せずに海外からの投資を部分的に受け入れるための手段として活用されているのです。
香港市場は、主要なメインボードと新興企業向けのGEM市場で構成されています。GEM市場は「Growth Enterprise Market」の略で、1999年11月に香港証券取引所が開設した新興企業向けの市場です。中小型の成長株を対象としており、株主数や売上高などの公開基準がメインボードよりも緩くなっています。米国のナスダック(NASDAQ)市場に相当し、成長性の高い企業にとって魅力的な選択肢と言えるでしょう。
GEM市場は、企業が投資家への認知度を高め、さらなる企業発展を目指すための足がかりとしても活用されています。そのため、GEM市場に上場した企業が、さらなる成長を目指すためにメインボードへの指定替えを行うケースも増えています。
香港市場は中国本土と国際市場の架け橋となっており、H株やレッドチップと呼ばれる中国企業の株式も取引されています。香港市場は、世界中の投資家と企業を結びつける役割を果たしているのです。
2024年に入り、香港上場の中国本土株は上昇傾向を示しています。背景には、中国株の割安感に着目した海外勢の買いがあります。例えば、ハンセン指数の4月末時点の予想PERは約8.5倍と、他国に比べ著しく低い水準にあります(S&P500は約20倍、TOPIX約16倍)。加えて、中国当局の景気対策への期待や、米中対立の緩和観測なども、中国株の追い風になっています。
ただし、海外投資家の間では依然として慎重な姿勢もあります。中国経済の先行きへの不透明感や、不動産セクターの債務問題、地政学リスクなどが懸念材料として残っているためです。多くの投資家は、長期的な視点に立った大規模な投資戦略を控え、目先の相場の動きから短期的な利益を得ることに重点を置いています。つまり、投資家は小口の資金を投じて、相場の一時的な回復を狙った「戦術的」なアプローチを取っているのです。
一方、中国本土の個人投資家の間では、割安な香港株への関心が高まっています。香港ハンセン指数は4月25日まで4日続伸し、約5カ月ぶりの高値圏で推移。4月29日には1月22日の安値から20%強の上昇となり、強気相場入りとなりました。中国本土からの旺盛な資金流入が背景にあるとみられています。
中国株式市場の先行きを占う上で、中国経済の動向は重要なファクターとなります。足元では、中国政府が自動車の下取りに補助金を出すなど、需要喚起策を打ち出しました。こうした政策効果により、中国経済の回復ペースが上向けば、株価の上昇が続く可能性があります。
ただし、中国株投資には依然リスクが伴うことには注意が必要です。米中対立の行方や、不透明な規制環境、不動産セクターの債務問題など、不安定要因は根強く残っています。
中国株は割安感が際立つ一方、投資判断には慎重さが求められそうです。足元の上昇の持続性を見極めつつ、中長期的な投資リスクとリターンのバランスを考える必要があります。中国株はボラティリティ(変動率)が高く、ハイリスク・ハイリターンの投資対象なので、自身のリスク許容度に応じた投資判断が大切です。
海外投資家にとって、中国株式市場は魅力と不安が交錯する場所です。割安なバリュエーションは魅力的ですが、政治・経済両面でのリスクは無視できません。中国経済の先行きや構造改革の行方、米中対立の推移などを慎重に見極めながら、選別的な投資を行うことが求められます。
ポートフォリオ構築の観点から、機関投資家の中には中国株式のウェイトを引き上げる動きもみられます。中国株式の組み入れにあたっては、セクターや個別銘柄の選別が重要となるでしょう。また、成長性や割安感だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点も考慮し、持続的な成長が期待できる企業を見極めることが大切です。
今後も中国経済の先行き不透感が続く場合は、ASEANなどの海外向け輸出に強い中国株が選好される可能性もあります。中国は、近年、最大の輸出先であった米国向けの割合を低下させ、欧州、中南米、中東、東南アジアなどへの輸出量を大きく増やしています。特に、ASEAN向けの輸出が伸び、初めて最大輸出先となりました。外務省の調査によれば、ASEANから見ても今後の重要なパートナーを「中国」 とする回答数が最も多く、ASEANの成長が中国の経済を支える可能性が指摘されています。そのため、最近では海外売り上げ比率の高い中国企業に注目した個別銘柄への投資が注目され始めています。例えば、チョウタイフック、レノボ、ウーシーバイオロジックス、ギャラクシーなど海外売り上げ比率が75%を超える企業もあります。今後注目する投資家が増えてきそうです。
日本企業にとっても、中国経済の変化を的確に捉え、新たなビジネスチャンスを掴む可能性もあります。中国政府が推進するデジタル経済や環境・エネルギー分野などは、日本企業にとっても有望な市場となる可能性があります。中国企業との協業や、現地ニーズに合わせた製品・サービスの開発なども検討に値するでしょう。
これを受けて、すでに中国関連株に変化が見られます。中国関連株として代表的な銘柄である資生堂、ユニ・チャーム、ファナック、安川電機、キーエンス、ディスコ、アドバンテス、村田製作所、T D K、ニデック、サイゼリア、ファーストリテーリング、シスメックスなど、すでに動意付いている銘柄もあります。銘柄の選定基準は、国策の中心は中国企業が担うことが多いため、国策的な領域から少しズレた周辺事業を補う日本企業から選定を行うと良い投資先が見つかる可能性高いと思われます。
中国株式市場は香港ハンセン指数が強気相場入りするなど、転換点を迎えつつあります。しかし、その行方は依然不透明です。投資家には、冷静な判断力と柔軟な対応力が求められる時代が続きそうです。中国株投資は、リスクとリターンのバランスを取りながら、長期的な視点で臨むようにしましょう。
また、中国経済の先行きや構造改革の行方、米中対立の推移など、マクロ環境の変化を注視しつつ、個別企業の業績や成長性を見極めることも重要です。中国の国策とも言えるEV、太陽光発電の関連製品、リチウムイオン電池の3分野は今後も成長期待が高く、その分野の恩恵を受ける企業を発掘する一方で、中国内において過剰在庫を抱える企業群の業績を見極めながら、周辺事業の成長シナリオを見極めた投資戦略を立てることが重要です。
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