富裕層の投資戦略において、適切なポートフォリオを構築するためには欠かせないのが投資信託です。長期的な資産成長を目指しつつ、リスクを最小限に抑えられためには、投資信託についてどのようなことを知っておくべきなのでしょうか。最終回の第3回では、ファミリーオフィスの現場でもクライアントに頻繁にお伝えしている、自分に適した投資信託の選び方に欠かせない『知識編』をお伝えしていきます。
[ 目次 ]
投資信託における超過リターンとは、ファンドやポートフォリオのベンチマークのリターンを上回る部分のことを言います。
それは、「アクティブリターン」「超過収益率」ともいいます。
つまり、市場全体のリターンを上回る収益を意味し、一般的な投資家が得られるリターンに比べて、投資信託の運用成績が優れていることを指します。超過リターンを得るファンドを見極めるためには、パフォーマンスの実績以外にもポイントがあります。
重要なのは、この超過リターンが一時的ではなく長期的に出し続けられているか、ということになります。
具体的には、過去5年間のパフォーマンスを見るべきです。
短期的に超過リターンが出ているファンドは多くありますが、5年以上のスパンで超過リターンが出せているファンドは多くありません。そのため、できれば5年、少なくとも3年間のパフォーマンスを見て、超過リターンが出ているかを確認しましょう。最もわかりやすくファンドを見極めることができるのがこの過去の超過リターンの実績です。
これは簡単にマンスリーレポートなどで確認できますが、それが今後続くかどうかは誰にもわかりません。今後も超過リターンが出せるかどうか、次のポイントを見ることで、過去の実績以外でも予測することができます。
投資信託の運用成績は、ファンドマネージャーの力量に大きく左右されます。
優れたファンドマネージャーは、市場のトレンドを正確に読み取り、適切な投資先を選択する能力を持っています。まず、ファンドマネージャーを選ぶ上で最も重要と言っていいことをお伝えします。
それは、顔の見えるファンドマネージャーかどうかです。顔の見えるファンドマネージャーは、投資家や販売会社との信頼関係を築くために、顔や名前を公に出しています。基本的に日本の投資信託の運用会社のファンドマネージャーは「サラリーマン」です。運用成績によってそこまで給料が左右されないため、あまり冒険をせず、できるだけ無難な運用をします。日本の金融業界では顔を出して運用することはほとんどないため、結果としてパフォーマンスも上がらず、どのファンドも似たような運用成績しか出せないのです。
また、顔の見えるファンドマネージャーの良い点には、投資家とのコミュニケーションができるということも重要なポイントです。投資家にはファンドマネージャーの考えていることや性格などがわかったほうが安心できますし、投資家とのやり取りがスムーズで、投資家のニーズに応えられるかどうかも重要なポイントです。
海外のファンドと違い、日本のファンドマネージャーで顔と名前を出している人は10人にも満たないです。顔を出すことによって、ファンドの運用成績にもしっかりコミットしていることがわかり、今後の超過リターンにも期待することができます。
専門家の評価を参考にすることで、投資先のファンドをより的確に選ぶことができます。
専門家の評価を参考にするには、まず信頼できる専門家を探す必要があります。代表的な専門家として、投資経験が豊富なアナリスト、投資家、投資情報サイト、富裕層に特化した金融機関などがあげられます。また、専門家の評価を参考にする際には、専門家の評価を行った時期や、専門家が投資を行った結果なども重要なポイントとなります。
しかし、ここで注意が必要なことは、インターネット上の情報だけで判断してはいけないということです。最近では、無資格・業界未経験の方がそれっぽく投資について語っていることがよくあります。私たちのような金融関係者から見ていると、間違った知識をもとに話しているなと感じることもよくありますし、たまたまうまくいった商品を勧めているなんてこともあります。
そして彼らは市場の下落により損失を被ったときには揃って無言になるのです。そのような情報はほぼあてになりません。インフルエンサーが勧めてたから、ネットで良いと見たから、なんて理由で簡単に手を出すのはやめましょう。
投資におけるリスクの本来の意味は、リターンの不確実性の度合いのことを指します。つまり、ファンドがどの程度の振れ幅があるのか、を数値化した指標です。
一般的にリスクとは、「危険なこと」、「避けるべきこと」という意味で使われていますが、それは本来の意味とは異なります。また、その2つのリスクの意味がごっちゃになって使われていたり、場合によっては一般的な意味合いしか知らないなんてこともあります。そのため、改めてリスクについて整理してみます。
投資において本来の意味のリスクは、リターンの振れ幅のことです。もう少し詳しく説明すると、そのファンドが、リターンを起点にどの程度上下にブレているかの平均値を表したものになります。
例えば、平均リターン10%のファンドがあったとして、リスクが5%だとすると、そのファンドのリターンは10%±5%ということになります。つまり、そのファンドは+15%のリターンの時もあれば、+5%の時もあった、ということです。このリスクが20%であれば、リターンは+30%や-10%の時もある、となるので、リスクが高くなればそれだけファンドの値動きが大きいとも言えます。
よく、「ボラティリティ」との違いを問われることもあります。ボラティリティは、単純に上下どの程度値動きしているかを示すものであり、最も高い時と低い時の差を数値化したものです。また、ボラティリティは3ヶ月や6ヶ月といった短期スパンでの値動きの幅を示すことが多く、リスクは年率で示します。
実際にはそれぞれ複雑な計算式があるのですが、概念だけ理解するには全く不要なものなので、ここでは省略します。リスクについては、運用報告書などでは確認できないため、専門的な投資情報サイトなどで見ることができます。対象資産や、類似ファンドとの平均値と比較しましょう。
一般的な意味合いのリスクでは、損失が生じる可能性という意味で使われることがあります。本来の意味とは異なりますが、ファンドでも使われることがあります。一部その例としてご紹介します。
市場リスクとは、経済の状況や市場の変動によって資産価値が変わるリスクのことです。景気の停滞や株価の下落など、市場の変動が投資家に影響を与える可能性があります。
信用リスクとは、企業や政府が債務不履行に陥る可能性のことを指します。債券や社債を保有している場合、発行体が債務不履行になると元本の一部または全てを失う可能性があります。
流動性リスクとは、投資した資産をいつでも売却できるかどうかのリスクです。市場の流動性が低い場合、資産を売却することが困難になるため、損切りや利益確定が難しくなります。
為替リスクとは、外国通貨による投資や海外取引に伴うリスクのことです。為替相場の変動によって、元本や利益が変動する可能性があります。
個別企業リスクとは、企業の業績や経営状況によって生じるリスクのことです。特定の企業に投資している場合、その企業の業績が悪化したり、経営不振に陥ったりすると、投資家に損失が生じます。
投資においては、リスクとリターンのバランスを見極めることが重要です。
特に投資家が注目すべき指標の一つが「シャープレシオ」です。
シャープレシオとは、投資のリターンをリスクから分離して考えるための指標の一つです。つまり、取っているリスクに対してどのくらい効果的にリターンが得られているか、運用の効率性を数値化したものです。シャープレシオを見ることにより、投資リターンを最大化し、リスクを最小限に抑えることができます。
シャープレシオは、リターンからリスクフリーレートを引いた数値をリスクで割って求めた運用効率を計る指標で、数値の大きい方が運用の効率性が高いということになります。
ノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープが考案したことからその名前がとられており、リスクを考慮したパフォーマンス評価方法の代表的なものとして、広く使われています。
計算式はこちらです。
シャープレシオ=(リターン-リスクフリーレート)÷リスク
リスクフリーレートとは、理論的にノーリスク資産の利回りのことであり、その国の国債利回りが一般的に使われます。しかしそれは専門的なので、シャープレシオを理解する上では、ざっくり「リターン÷リスク」として理解していただいて問題ありません。
投資を行う際には、シャープレシオを比較して評価することが重要です。しかし、シャープレシオの比較には注意が必要です。まず、シャープレシオを比較する際には、投資期間を同じにする必要があります。投資期間が異なる場合、正しい比較ができません。
例えば、ファンドAは2008年のリーマンショックを含み、ファンドBはリーマンショックを含まないでは、単純に運用成績を比較できないからです。具体的には、過去5年もしくはそれ以上のシャープレシオを見るのが良いです。
次に、同じアセットクラスの比較に使うということです。
シャープレシオは、基本的には「日本株」同士など、同じアセットクラス(カテゴリ)の商品比較に役立つものです。例えば、リスクの高い「日本株」とリスクの低い「日本債券」を比較した場合、同じシャープレシオだとしても、値動きや得られるリターンは異なるため、参考にはなりません。
シャープレシオは、ポートフォリオを決める際にも活用できます。前述したように、シャープレシオは、基本的には同一アセットの商品を比較するために使います。
しかし、分散投資をする場合にも有効です。
仮に保有資産が全て株式で、バランスを取るために低リスク資産も組み入れたい、という場合、どのファンドに投資するかを決める際にも利用できます。例えば、保有資産に債券ファンドを組み入れようとした場合、債券ファンドの中でもシャープレシオが高い順にピックアップし、その中で自身に見合ったリスク度合いやリターンで選ぶことができます。
投資家の方の中で意外とシャープレシオを見ている方は少ないと思います。あくまで数値的な比較にはなりますが、シャープレシオをうまく使って投資信託を見極めましょう。
投資信託を見極める上で、意外と知られておらず、かつ重要な指標が「売買回転率」です。
売買回転率とは、投資信託内のポートフォリオがどれだけ頻繁に売買されているかを示す指標です。具体的には、一定期間内に売買された金額の合計を、投資信託の資産総額で割ったものです。
例えば、ある投資信託の資産総額が100億円で、一定期間内に売買された金額が50億円だった場合、その売買回転率は0.5倍となります。
これは、投資信託の決算期ごとに計算されており、1年ごとに決算を行う投資信託には運用報告書にその期間である1年間の回転率が記載されます。運用報告書では、「売買高比率」という名称で運用報告書に記載されています。
売買高比率=売買回転率です。
ただ、必ず記載されているわけではなく、明示していないファンドも多くあります。その場合は報告書でポートフォリオ内の売買金額の合計を純資産総額を割ることで知ることができます。
売買回転率が1倍だとすると、その期間でリバランスなど含めポートフォリオが総入れ替えされていることになります。一般的に1倍を上回ると高い部類に入り、ファンドによっては5倍、つまりポートフォリオが期間中に5回入れ替わるほどの売買を行っているファンドも存在します。
売買回転率を見ることにより、そのファンドの性格、つまりどのような投資行動を取っているのかがわかります。しかし、売買回転率は高ければ良い、低ければ良いというものではありません。あくまでどのような投資をしているのかを知ると同時に、その数値によって今後のパフォーマンスも予測することができます。
投資信託においては、相対的にポートフォリオ売買回転率が低いファンドの方が運用コストを抑えられる面があります。売買を頻繁に行うということはそれだけ運用するためのコストがかかることになるため、見えないコストを把握することができます。
売買回転率が低ければリスクを抑える傾向にある投資信託、高ければ積極的にリスクを取りにいく傾向のある投資信託といえます。数値が高いということは短期的に売買を行っており、株価動向に合わせ機動的に利益を狙いに行っているということです。数値が低ければ、長期保有メインでバイ・アンド・ホールドが主な方針だと言えます。
売買回転率の高いファンドにはグロース系のファンドが多く、低いファンドはバリュー寄りのファンドが多いです。一般的にグロース株は、値動きが大きく業績動向も変わりやすいです。そのため短期的なリバランスや入れ替えなどを行うことが多いです。一方バリュー株は、業績や株価の変動は少なく、株価が見直されて上昇するまでは長期保有をすることが多いと言えます。
高い売買回転率を持つ投資信託は、市場の変動に敏感に反応し、積極的な運用を行っています。そのため、相場の上昇や下落に敏感に反応することが期待されます。
一方、低い売買回転率を持つ投資信託は、市場の変動にあまり影響を受けず、安定した運用を行っています。そのため、売買回転率を見ることで、自身のリスク許容度や、どのような性格のファンドに投資をしたいかの判断になります。
最後に
3回に渡って、投資信託の選び方をお伝えしてきました。長期に渡り資産を形成する場合、投資信託を活用してポートフォリオを組み運用を行うスタイルが、特にファミリーオフィスのような大きな資産を管理する場合は、世界的に主流になっています。しかし、富裕層ご本人が投資信託について知識を持ち合わせていないため、金融機関やIFAなどの言われるままに運用をして後悔をされるケースが散見されます。是非、3回に渡る内容をしっかりと理解していただければ、資産運用における大きなミスは減るかと思います。皆さんの良い資産運用の一助になれば幸いです。
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