富裕層・経営者の皆様にとって、築き上げた資産をいかに効率的に保全し、次世代へ円滑に引き継ぐかは、経営戦略にも匹敵する重要な課題です。特に、個人所得の最高税率が55%(所得税・住民税合計)に達する現在、「資産管理会社(プライベートカンパニー)を設立すべきか否か」という問いは、合法的な税負担の最適化を考える上で避けて通れません。
本稿では、弊社の中立的な知見に基づき、資産管理会社のメリット・デメリットを詳細に比較し、設立を判断するための明確な基準と具体的な戦略を提示します。この記事をお読みいただくことで、貴社の資産を守り、長期的な安定運用を実現するための「器」を選ぶ上で、確かな判断軸が得られます。
[ 目次 ]
1. 資産管理会社(プライベートカンパニー)の基本定義と戦略的優位性
資産管理会社は、オーナーの資産運用・管理に特化した法人であり、特に個人と法人の税率差を活用した税負担の最適化において、個人保有にはない戦略的な優位性を持っています。
1-1. 資産管理会社の基本的な役割と法人化の背景
資産管理会社(通称:プライベートカンパニー)とは、オーナー個人の保有する預貯金、株式、不動産などの資産を法人名義で保有・管理・運用する法人です。通常の営利企業と異なり、オーナーの資産管理に特化しています。
- 法人化の背景: 個人所得税の最高税率55%(所得税45%+住民税10%)に対し、法人実効税率はおおよそ33.58%(資本金1億円以下の普通法人)です。この約21.42ポイントの税率差が、富裕層が法人を設立する最大の動機となります。
- 機能: 利益を法人内に留保し、税率が低い状態で再投資することで、長期的な資産の複利効果を高めることが可能です。
2. 設立すべきか?判断するための3つの戦略的基準
資産管理会社の設立を検討する際は、感情論ではなく、具体的な財務状況と目的に基づいた戦略的な判断が必要です。ここでは、設立を決定づける3つの重要な基準を解説します。
2-1. 基準1:年間所得(運用益含む)の損益分岐点
法人化によって得られる節税効果が、設立・維持に必要なコストを上回るかどうかが最も重要な判断基準です。
- 目安となる所得水準: 年間所得(本業の収入+資産運用益)がおよそ800万円〜1,000万円以上であれば、法人化のコスト(均等割、税理士報酬など)を上回る節税効果が見込める一つの目安とされています。
- 専門家の視点: 所得水準が低い場合や収益が不安定な場合は、赤字でも発生する法人住民税均等割などのランニングコストが重荷となり、メリットを相殺するリスクがあります。
2-2. 基準2:主要資産の種類と承継目的の有無
資産管理会社は、特に承継対策において高い効果を発揮します。
| 質問項目 | 回答が意味すること | 法人化の必要性 |
| 主要資産の種類 | 不動産や未上場株など、遺産分割が難しい資産の比重はどうか。 | 高い(株式化による分割) |
| 承継の目的 | 遺留分や相続人同士の争族リスク回避を優先するか。 | 高い(承継リスクの低減) |
2-3. 基準3:長期的な資産保全と安定運用へのコミットメント
法人を維持・運用することは、個人保有よりも煩雑な事務作業を伴います。長期的な視点での資産保全と安定運用を明確な戦略として位置づけ、そのための事務負担の受容性も判断基準となります。
3. 資産管理会社設立の具体的メリット:節税と承継の戦略
資産管理会社の活用は、適正な役務提供に基づく所得の分散や、資産を株式へ集約することで承継を円滑に進められるなど、富裕層が直面する課題への実務的な解決策として有効です。
3-1. 【税率最適化】適正な役務提供に基づく所得分散
適切な役務提供を行う家族を役員とすることで、その対価としての役員報酬を支給でき、結果として世帯全体の実効税率が下がるケースがあります。
法人税率と個人の税率差を踏まえ、全体での税負担を適正化することが可能できます。
3-2. 長期的な資産移転の仕組み
個人間の贈与では贈与税の課税対象となるケースがありますが、 役員として実務に従事した対価として支払う給与はあくまで「役務提供に対する報酬」です。
このため、贈与税の非課税枠に依存せず、適法な形で家族に資産が移転していく点がメリットとなります。
(※実態の伴わない給与支給は贈与と判断されるため注意が必要です)
3-3. 専門家が関わることでリスクを低減
当社が支援したケースでは、
- 役務の実態を明確化し
- 適正な報酬基準を設定し
- 税務調査で否認されない体制を整えたうえで
長期的に所得分散が進み、結果として資産承継がスムーズに行われた事例が多数あります。
3-2. 【承継戦略】資産を「株式」化し、遺産分割を円滑化
- 資産の集約と株式化: 不動産や未上場株など、物理的な分割が難しい資産を会社に集約させることで、相続財産をすべて「資産管理会社の株式」という形に置き換えます。
- 効果: 株式として容易に分割・譲渡できるようになり、相続時の争族リスクを大幅に低減できます。
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4. 資産管理会社設立の潜在的なデメリットと注意点
設立を検討する上で、メリットだけでなく、必ず伴うコストと事務負担の増加、特に収益が出ていない場合でも発生する税負担について、十分に理解しておく必要があります。
4-1. 設立・維持コストと事務負担の増加
法人を設立し維持するには、個人事業主よりも高いコストと複雑な事務処理が伴います。
- ランニングコスト: 法人税、事業税に加え、複雑な経理処理のための税理士への顧問報酬が毎年発生します。
- 社会保険料: 原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられ、オーナーとその家族が会社側と役員側の両方を担うため、保険料の全額を実質的に自己負担することになります。
4-2. 赤字決算時にも課税される法人住民税の均等割
- 負担額: 法人住民税の「均等割」は所得額に関わらず課税され、赤字決算の場合でも原則として最低年間7万円程度(自治体や資本金規模により変動)が発生します。収益が不安定な場合は、この負担が重荷となる点に注意が必要です。
5. 設立プロセスと長期的な資産保全のための重要指針
資産管理会社の設立は、単なる登記手続きではなく、税理士との綿密なシミュレーションから始まる戦略的なプロセスです。設立後の運用においては、法令遵守と中立性を維持した管理が不可欠です。
5-1. 設立手続きのステップ
- STEP 1:税理士との戦略的打ち合わせ
- STEP 2:会社概要の決定
- STEP 3:定款の作成・認証
- STEP 4:資本金の払い込み
- STEP 5:設立登記申請
- STEP 6:各種届出の提出
5-2. 資産管理における中立性と管理の重要指針
- 指針 1:法人と個人の資産の峻別:
- 公私混同は税務調査の対象となる重大なリスクです。法人口座と個人口座の取引は明確に分け、私的な支出を法人経費とすることは厳に避けるべきです。
- 指針 2:法令遵守と報酬の適正化:
- 税法を遵守し、特に家族への役員報酬額は、同業他社の水準や会社の利益を鑑みて適正水準を決定することが求められます。
- 指針 3:出口戦略の明確化:
- 将来的な会社の解散(清算)や事業承継といった「出口戦略」についても、設立当初から専門家と協議し、ロードマップを作成しておくべきです。
6. 資産管理会社の設立に関するよくあるご質問(FAQ)
ここでは、設立の是非や具体的な費用、運営に関する富裕層の皆様からよく寄せられる質問に対し、専門家の見解を簡潔に回答します。
6-1. Q: 設立・維持の費用は資産規模がいくらからが目安ですか?
A. 節税メリットとコストの損益分岐点を考慮すると、年間所得(資産運用益含む)がおよそ800万円〜1,000万円以上が一つの目安となります。この水準を超えると、税理士顧問料や均等割などのランニングコストを上回る節税効果を見込めます。
6-2. Q: 設立手続きで一番大変なのは何ですか?
A. 手続き自体は専門家に依頼すれば簡略化できますが、最も時間を要し、かつ重要であるのは「設立前の税務シミュレーションと家族会議」です。役員報酬の設定、資産の移転方法、会社の将来的な目標などを、税理士を交えて綿密に練る作業が、将来の成功を左右します。
6-3. Q: 専門家に相談する際、最も重要なポイントは何ですか?
A. 独断で行わないことです。設立は税務、法務、金融の複数の側面が関わります。単一の専門家の意見に偏らず、全体を統合し、中立的なアドバイスを提供できる「司令塔」(ファミリーオフィス)を見極めることが、成否を分ける最大の鍵となります。
7. まとめ:設立の成功は「戦略的な選択」から始まる
資産管理会社の設立は、富裕層が長期にわたり資産を保全し、次世代へ円滑に承継するための戦略的な「選択」です。節税効果、資産の流動性向上といった大きなメリットがある一方で、コストや事務負担といったデメリットも存在します。成功の鍵は、所得水準や承継の目的といった貴社の課題に合わせて最適な戦略を「選択」すること、そして、中立的な専門家によるサポートの確保です。
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