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【ご相談】SaaSの死は本当か?また、サテライト運用にどう反映させていくべきか。

【ご相談】SaaSの死は本当か?また、サテライト運用にどう反映させていくべきか。

── Y Combinator最新リストから読み解く、次世代のポートフォリオ

【Q】読者からの質問

資産の大部分をポートフォリオ運用で手堅く運用しつつ、サテライト運用として米国の個別企業、SaaS株にいくつかの投資をしています。しかし最近、海外のメディアなどで「SaaSの死(The Death of SaaS)」という過激な見出しを目にすることが増え、実際に株価が下落する銘柄も目につきます。そのため、今後の保有に少し迷いが生じています。AIの進化によって、本当にこれまでの勝ち組SaaS企業は全滅してしまうのでしょうか? これからの個別株投資における考え方を教えてください。

【A】回答:ツールを売るビジネスは終わる。これからは「成果そのもの」が取引される時代へ。

非常に冷静で、かつ今すべての投資家が直視すべきタイムリーな問いだと思います。結論から言うと、従来のビジネスモデルに留まるSaaS企業は、残念ながらここから数年で急速にコモディティ化し、厳しい淘汰を迎える可能性が高いといえます。

しかし、これは決して恐るべき話ではありません。「ツール(ソフトウェア)を売る時代」が終わり、「成果を売る時代(社会実装)」が始まるということです。

その未来の投資地図を、先日、米アクセラレーターのY Combinatorが(YC)発表した最新の「注力領域リスト(Request for Startups)」にヒントがあります。ここからは、特定の銘柄の浮沈を予測するのではなく、あくまでも「マクロの潮流」と「ミクロの変化」から何を見出すべきか、3つの視点をお伝えします。

SaaSの限界と「AIネイティブ・サービス」の誕生

これまで、株式投資の世界でも「SaaS(月額課金ソフト)」は最強のビジネスモデルの一つとされてきました。一度導入されれば解約されにくく、安定したストック収入が入るからです。

しかし、YCはここに強烈な指摘をしています。AIの登場によって、ソフトウェアを開発するコストは従来の「10分の1から100分の1」に激減しました。これは何を意味するか。「ツールの機能差で高い月額料金をとる」というビジネスモデルの前提が揺らいでいるということです。

これからの主役は、ソフトウェアという「道具」を売る会社ではありません。保険仲介、会計、コンプライアンス、医療事務といった実業務を、AIエージェントが裏側で丸ごと代行し、「決算書が完了した」「契約リスクの審査が終わった」という『成果そのもの』を納品する企業(AI-Native Service Companies)です。

たとえばこれまでは、企業に対して「使いやすい会計ソフト」を月額で貸し出し、データの入力やチェックは人間の社員に行わせるモデルが主流でした。しかしこれからは、領収書やデータを投げておけばAIが裏で自律的に記帳し、決算書まで完成させてしまう世界に変わります。企業はソフトというツールの利用料ではなく、「決算書の完成」という成果そのものに対してお金を払うようになるのです。

労働集約型で利益率が低いと見落とされがちだった「業務代行(BPO)」的な領域が、AIという自律的な部下を手に入れた瞬間、原価の極めて低い「超・高収益セクター」へと変貌するかもしれない。こうした「ビジネスモデルの定義の書き換え」に着目することが、これからの時代は重要になります。

「AIエージェント」という、人類史上初の新しい顧客層

もう一つの決定的な変化は、ソフトウェアの「買い手(ユーザー)」が変わることです。

これまでのITの歴史は、「いかに人間に使いやすい画面(UI)を作るか」の歴史でした。しかし、YCのリストには「Software for Agents(エージェントのためのソフトウェア)」という言葉が登場します。

未来のビジネス空間では、人間がいちいち画面をクリックして操作しません。自律的に動く「AIエージェント」が、他のAIと超高速で通信しながら業務を片付けます。つまり、人間が見るための綺麗なデザインの価値は相対的に下がり、AI同士が対話するための「API」や「MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)」といった、目に見えない裏側の接続インフラを牛耳る企業が次のプラットフォーマーになっていく潮流です。

身近な例で言えば、これまでは人間が旅行予約サイトの美しい画面を見比べ、ポチポチとクリックしてホテルを探していました。しかしこれからは、あなたのスマホにいる「AI秘書」があなたの出張スケジュールを理解し、裏側でホテルの「AI受付」とミリ秒単位で直接交渉して最適な部屋を押さえてしまうようになります。そこには、人間に見せるためのウェブ画面は一切経由しません。

企業のあらゆる分散データを統合し、AIが理解できる「生きた脳」に仕立て上げるPalantir(PLTR)のような企業が、なぜ今マーケットでこれほど注目されているのか。その背景には、こうした「買い手の主役が人間からAIへシフトする」というマクロの構造変化があります。

少人数で巨大企業を揺るがす「レバレッジ」の時代へ

YCのリストの中で、非常にエキサイティングな一節があります。 「Startups Selling to Huge Companies(巨大企業向け販売スタートアップ)」

最新のAIインフラを使えば、わずか数人の小さなチームであっても、Fortune 100に名を連ねるような世界的巨頭がシステムをリプレイスしたくなるほど洗練された製品を、わずか数ヶ月で開発し、出荷できるようになります。

かつて、巨大企業にシステムを導入するためには、数万人規模のシステムインテグレーター(SIer)が何年もかけて手作業でコードを組み上げる必要がありました。しかし今や、わずか3人の天才スタートアップが、AI開発エージェントを裏で1,000人分走らせることで、大企業向けの堅牢なシステムを1ヶ月で構築し、レガシーな既存システムを丸ごと置き換えてしまうような下剋上が可能になっています。

これは、資本力のある大企業が勝つという「規模の経済」のルールが、AIによって完全にハッキングされたことを意味しています。

【まとめ】特定の銘柄に固執せず、変化の「力学」に目を凝らす

「手持ちの個別株がダメになる」と過度に怯える必要はありません。歴史あるSaaSの巨頭たちも、ただ落ちていくのを待っているわけではありません。

例えば、Salesforce(CRM)は自律型AI「Agentforce」を打ち出し、従来の「入力ソフト」から「AIが営業やサポートを完結させる」エージェントモデルへシフトを図っています。バックオフィスを握るServiceNow(NOW)や、データ基盤のSnowflake(SNOW)サイバーセキュリティのCrowdStrike(CRWD)なども、すでに持っている「企業の基幹データ(顧客情報やログ)」という最大の参入障壁を武器に、自社プラットフォームのエージェント化を急ピッチで進めています。これらは既存の強みを上手に活かした防衛策のケーススタディです。

ここで大切なのは、「どの企業が勝つか」という個別推奨ではなく、「これまで通りのレガシーな月額課金(SaaS)を盲信してホールドし続けるリスクが高くなった」という変化を理解することです。これからは、単に「仕組みがストック型だから」という理由だけで評価されていた企業は淘汰され、自社モデルをドラスティックに「成果課金型・エージェント型」へ自ら破壊・移行できた企業だけが生き残る、極めてシビアな選別期に入ります。

欧米の富裕層の資産を守るファミリーオフィスの現場であっても、ポートフォリオを中心とした保守的な資産運用をコアに据えつつ、こうした「破壊的イノベーション」がもたらすミクロの力学をサテライト戦略のヒントとして常に注視し、運用に組み込んでいます。

資産運用とは、自らの自由度を高め、人生を豊かにするための道具です。 サテライト戦略において特定の「現在の勝ち組」に依存しすぎず、こうしたミクロの変化をヒントにしながら、次世代のエージェントインフラや、AIが物理世界を変革するフロンティア領域(次世代半導体、宇宙インフラ、AI医療・農業など)へと柔軟に視野を広げていくこと。

サテライト運用において最も重要なのは、目先の個別銘柄の株価に一喜一憂する側ではなく、その裏で起きている「本質的な価値の移動」を冷静に見極めることです。

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