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【ご相談】富裕層のための保守的な資産配分とは何か?

【ご相談】富裕層のための保守的な資産配分とは何か?

~株式の割合を減らすことではなく、目標達成確率を最大化すること~

Q. 相談内容

最近、ニュースや金融機関のレポートを見ると、「米国株は割高な水準にある」「AI関連銘柄には過熱感がある」「AIバブルではないか」といった声を耳にする機会が増えています。

私自身もここ数年の株式市場の上昇によって資産が大きく増加しました。そのため、「このまま株式を持ち続けて良いのだろうか」「利益を確定して守りを固めるべきなのだろうか」と悩んでいます。

金融機関からは、「市場が高値圏にあるため、株式を減らして債券を増やしましょう」という提案を受けました。確かに安全そうにも聞こえますが、一方でAI革命による企業業績の成長が続くのであれば、将来のリターンを取り逃してしまうのではないかとも感じています。

ファミリーオフィスでは「保守的な資産配分」という言葉を耳にしますが、本当に保守的な資産配分とはどのような考え方なのでしょうか。また、市場の過熱感が指摘される局面で、富裕層はどのように資産配分を考えているのでしょうか。

A. 回答

ご質問ありがとうございます。結論から申し上げると、ファミリーオフィスの世界における保守的資産配分とは、単に「株式の割合を減らすこと」ではありません。

もちろん、市場環境によっては株式比率を引き下げることもあります。しかし、それは「株式が危険だから」ではなく、ポートフォリオ全体のリスク量が目標に対して過大になった結果に過ぎません。

ファミリーオフィスの実務において、「いまがAIバブルかどうか」を議論することでこの重要な問題が解決できるとは考えません。なぜなら、その議論が正しいかどうかは10年後にならなければ誰にも分からず、不確実な未来の予測に依存すること自体が、資産管理の本質から外れているからです。

富裕層にとって真に重要なのは、相場予想を当てることではなく、ご家族の目標資産額や人生設計の目標を確実に実現できるかどうかなのです。

ファミリーオフィスが考える保守的資産配分とは、「目標達成に必要な期待リターンを維持しながら、目標達成確率を最大化するために、ポートフォリオ全体のリスクを管理すること」を意味します。その考え方を3つの視点から解説します。

保守的な資産配分に「正解」が存在しない理由

資産運用の世界では、「株式60%・債券40%」という伝統的な資産配分が長く使われてきました。しかし、ファミリーオフィスの世界では、この配分を万人共通の正解とは考えません。なぜなら、お客様ごとにゴール(目標)が異なるからです。

例えば、同じ資産3億円を保有されているご家庭でも、必要とする期待リターンは全く異なります。

  • 資産3億円・年間300万円を取り崩すご家庭(必要なリターンは低い)
  • 資産3億円・年間1,500万円を取り崩すご家庭(高いリターンが必要)
  • 10年後に事業やライフイベントで資産を活用したい方
  • 50年先の世代まで資産をシームレスに承継したい方

【目標設定の例(※税引前・複利計算)】

  • 現在3億円の資産を、20年後に5億円にする場合:必要な運用利回りは年率約2.6%
  • 現在3億円の資産を、20年後に10億円にする場合:必要な運用利回りは年率約6.2%

当然ながら、必要なリターンが異なれば、許容できるリスクも異なります。つまり保守的資産配分とは、「株式を何%持つか」という型ではなく、「目標達成に必要な期待リターンを確保した上で、どこまでリスクを削減できるか」を考えることなのです。

なぜ、資産が増えたのに不安が消えないのか

ここ数年の株式市場の上昇によって、多くの富裕層の資産は大きく増加しました。しかし不思議なことに、資産が増えたにもかかわらず、「何となく不安だ」と感じる方は少なくありません。

その理由は、資産額ではなく、ポートフォリオの「リスクの絶対量」が勝手に増えているからです。

  • 市場が平穏な時: 株式市場の予想変動率(ボラティリティ)が年率10%だったとします。この場合、3億円の株式資産であれば、年間でおおよそ±3,000万円程度の変動が想定されます。
  • 市場の過熱期: AI関連銘柄への期待などから、市場が織り込む将来の予想変動率(インプライド・ボラティリティ)が20%へ上昇した場合、同じ3億円の投資であっても、年間の想定変動額は±6,000万円程度へ拡大します。

投資金額は1円も変わっていません。しかし、抱えているリスクだけが2倍になっているのです。

つまり、「株式60%」という資産配分を頑なに維持していたとしても、実際には当初想定していた以上のリスクを背負わされている可能性があります。ファミリーオフィスでは、株価の上下だけでなく、この「市場が織り込む将来のリスクの変化」までをモニタリングし、必要に応じてリスク量を適正水準へ調整します。

「分散しているつもり」の落とし穴

さらに重要なのが、資産同士の「相関関係(関係性)」です。多くの投資家は「株式60%・債券40%だから分散できている」と考えます。しかし実際には、金額ベースで分散されていても、リスクベースでは分散されていないことが少なくありません。

株式の変動率は債券の数倍大きいため、資産額で60:40に分けていても、ポートフォリオ全体のリスク(変動要因)の大半を株式が占めているケースは実務上多々あります。

さらに問題なのは、2022年のように「株式と債券が同時に下落する局面」が発生することです。本来リスクを打ち消し合うはずの資産が、同じ方向に動いてしまうのです。

そのためファミリーオフィスでは、金額比率を見るのではなく、どの資産がどれだけリスクを生み出しているのかという「リスク寄与度」を分析します(機関投資家の世界では、こうした考え方をリスクパリティと呼ぶことがあります)。我々のようなファミリーオフィスの世界が管理しているのは、教科書的な「理想とする資産の配分」ではなく、ポートフォリオの底にある「リスク構造からくる資産配分」そのものなのです

結論:自身の「保守的な資産配分」をどうやって知るべきか?

金融機関から提示される推奨パッケージを眺める前に、ご自身にとっての真の保守的な資産配分を導き出すためには、次の3つのステップを順番に経る必要があります。

Step1.必要リターンの算出

将来見込まれるインフロー(事業収入など)とアウトフロー(生活費や資産承継など)を20年〜30年単位でシミュレーションし、ゴールから逆算した「最低限の運用利回り」を明確にします。

Step2.リスクの源泉の定量化

現在保有している資産を並べ、金額の比率ではなく「市場激変時にどの資産がどれだけ全体を引っ張るか(リスク寄与度)」を算出します。伝統的60:40のつもりが、実はリスクの9割を株式が占めていた、といった構造の歪みを把握します。

Step3.リスク予算の割り振り

目標リターンを満たしつつ、全体のリスクを最も低く抑えられるよう、株式、債券、ゴールド、オルタナティブなどの最適な配分比率を設計します。足元の市場が織り込む最新の変動率を反映させることが重要です。

ファミリーオフィスの世界では、相場の予測(上がるか下がるか)を議論する前に、まずこの「固有の目的の数値化」と「ポートフォリオのリスク測定」を徹底することが実務の標準となっています。

多くの投資家は「今年何%儲かるか」を気にしますが、本当に重要なのは一時的なリターンの最大化ではありません。「どのような未来が訪れても、ご家族のゴール達成確率を最大化するための、堅牢な仕組みをつくり上げること」であり、それこそが真の保守的な資産配分なのです。

▼回答者プロフィール
渋谷豊(ファミリーオフィスドットコム 代表取締役)

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