当事者の事業規模によって、事業承継のメリット・デメリットの大小は変動します。特に中小企業・小規模事業者などのように事業規模が小さい場合、事業承継税制の適用を受けられるかどうかで、事業承継の成否に大きな影響が及びやすいです。
そこで今回は、中小企業に焦点を当てて、事業承継のメリット・デメリットを手法ごとに紹介しながら、事業承継のメリットと事業規模の関係性、事業承継税制の概要などについて解説します。
[ 目次 ]
事業承継のメリット・デメリットとは?
事業規模に関わらず、事業承継にある共通のメリットは、「事業を存続させられる」点です。事業承継により廃業を回避すれば、従業員・取引先を維持できるうえに、事業を発展させていくチャンスまで獲得できます。
そのため、従業員の雇用や取引先との関係を維持したいケースや、事業が発展する可能性が高いケースなどでは、事業承継で得られるメリットは非常に大きいです。
その一方、事業承継では、相続税・贈与税・所得税などさまざまな税金について「課税が発生する」点が共通のデメリットといえます。事業規模が小さい場合には、課税が大きな負担になりやすいです。
上記の課題を受けて、政府は、事業承継税制により課税額の軽減を図っています。しかし、事業承継税制の適用を受けるには、事業規模をはじめとする諸要件をクリアしなければなりません。事業承継税制ついては、次章で詳しく解説します。
ここではまず、事業承継の各手法および精算・廃業について、それぞれの経営戦略のメリット・デメリットを確認しておきましょう。
親族内承継のメリット・デメリット
親族内承継では、経営者の親族(メインは子供)に事業を引き継ぎます。親族内承継のメリットは、以下のとおりです。
- 従業員・取引先などの関係者から受け入れられやすい
- 銀行(金融機関)などの資金提供者から支援を得やすい
- 準備期間(後継者の教育期間)を長く確保できる
- 財産や株式の分散を防げる
したがって、親族内承継は、事業規模が小さい場合やファミリーオフィスの構築を目指したい場合などに有効な手法です。ただし、親族内承継には、以下のようなデメリットもあります。
- 後継者にふさわしい人材が親族内にいるとは限らない
- 後継者と他の親族との間で資産・遺産に関するトラブルが生じるおそれがある
親族内承継を検討する場合、後継者の選定や親族間トラブルなどに十分注意しなければなりません。
従業員承継のメリット・デメリット
従業員承継では、自社の従業員に事業を引き継ぎます。従業員承継のメリットは、以下のとおりです。
- 社内の優秀な人材を後継者に据えられる
- 自社事業や業界に精通している人材を選べる
したがって、従業員承継は、優秀かつ信頼できる社員を抱えている場合に有効な手法です。ただし、従業員承継には、以下のようなデメリットもあります。
- 親族・取引先などから理解を取り付けにくい
- 社内で権力争いやトラブルが生じるおそれがある
- 株式・借入金・債務保証の引き継ぎに負担がかかる
事業規模の大小に関わらず、株式・借入金・債務保証などの承継では従業員に大きな負担がかかりやすいため、金融機関などから支援を受けつつ準備を進めると良いでしょう。
M&Aによる事業承継のメリット・デメリット
M&Aによる事業承継では、第三者に事業を引き継ぎます。M&Aによる事業承継のメリットは、以下のとおりです。
- 後継者にふさわしい人材を外部から広く探し求められる
- 資金力のある企業に売却することで、経営を安定化させられる
- 創業者利益(売却利益)を獲得できる
したがって、M&Aは、親族内承継・従業員承継が叶わないケースで用いられることが多いです。その一方、M&Aによる事業承継には、以下のようなデメリットもあります。
- 希望条件で売却できる相手が見つかるとは限らない
とはいえ、近年はM&A仲介会社やマッチングサイトなどが普及し、気軽に取引できるようになったため、中小企業や小規模事業者などでもM&Aによる事業承継が広く検討されています。
精算と廃業のメリット・デメリット
精算・廃業では、これまで続けてきた事業を廃止します。精算・廃業のメリットは、以下のとおりです。
- 創業者利益を獲得できる
- 経営を引退できる
つまり、精算・廃業のメリットは、M&Aによる事業承継でも得られます。しかし、精算・廃業では、以下のように深刻なデメリットが生じるため要注意です。
- 取引先に事業の中止を説明しなければならない
- 従業員を解雇しなければならない
- 借入金を全額返済できないおそれがある
中小企業や小規模事業者など事業規模が小さいと、すべての資産を処分しても債務超過に陥るケースが多く、精算・廃業の実施は非常に困難です。スムーズに経営を引退するには、たとえ事業規模が小さい場合でも、事業承継の選択肢を検討すると良いでしょう。
事業承継のメリットと事業規模の関係性
事業規模によって、事業承継のメリット・デメリットの大小は変動します。事業規模が小さい場合、事業承継税制の適用を受ければ、デメリットを抑えながら多くのメリットを得られるのです。
事業承継税制とは、「後継者が先代から経営者事業用資産・株式などを相続・贈与で引き継いだ際に、納税を猶予してもらえる制度」をさします。
簡単にいうと、すべての承継株式・相続税・贈与税について納税猶予が受けられる制度です。つまり、事業承継の共通デメリットである「課税が発生する」点を抑えられます。
ただし、事業承継税制の適用を受けるには、さまざまな要件をクリアしなければなりません。ここからは、事業承継税制の事業規模に関する適用要件に焦点を当てながら、事業承継のメリットが大きい事業規模について解説します。
事業承継のメリットが大きい事業規模とは?
事業承継のメリットが大きい(法人版事業承継税制の適用を受けられる)のは、中小企業庁が定義する「中小企業者」に該当する事業規模を持つ会社・個人です。中小企業者は、以下のように定義されています。
- 製造業・その他の業種:資本金の額または出資の総額が3億円以下or常時使用する従業員数が300人以下
- 卸売業:資本金の額または出資の総額が1億円以下or常時使用する従業員数が100人以下
- 小売業:資本金の額または出資の総額が5,000万円以下or常時使用する従業員数が50人以下
- サービス業:資本金の額または出資の総額が5,000円以下or常時使用する従業員数が100人以下
上記定義の事業規模に該当する会社・個人は、中小企業者とみなされて、事業承継税制により税制上の優遇措置を受けられる可能性があります。
なお、個人事業主の場合には、個人版の事業承継税制が利用可能です。2019年から10年間に限って、事業承継における贈与税・相続税を実質的に0円にできる非常に強力な税制となります。
そのため、個人事業の事業承継でメリットを最大化させたい場合には、個人版の事業承継税制の利用を検討してみましょう。
参照URL:中小企業庁「中小企業・小規模事業者の定義」
まとめ
事業承継は、事業規模を問わず、事業承継ではさまざまなメリットが得られます。中小企業の場合、事業承継のメリットが大きい(法人版事業承継税制の適用を受けられる)のは、中小企業庁が定義する「中小企業者」に該当する事業規模を持つ会社・個人になります。
ただし、ファミリー資産の観点では、事業規模におけるメリットで事業承継の判断を行うのではなく、今後、持続成長可能な優良事業を選択し継承していく判断が求められています。
各ご家族で一つとして同じ事業承継はありませんので、事業規模をきっかけにして、ご家族の希望する事業承継について話し合ってみてはいかがでしょうか。
関連記事
2024.05.22
個人の資産管理に「ファミリーオフィス」の利用が増えている理由
近年、資産家の資産管理に「ファミリーオフィス」の利用が増えているとされています。大々的...
- 資産運⽤サポート
- 後世まで残す事業承継
2024.05.22
ファミリーオフィスにファミリーミッション・ステートメントが欠かせない理由
ファミリーオフィスの運営には、ファミリーミッション・ステートメントというものがあり、個...
- プレミアム・ファミリーオフィス
- 資産運⽤サポート
- 後世まで残す事業承継
- 相続対策
- 投資
- 留学・教育・海外
2024.05.20
最強と言われるファミリーオフィスの管理体制とは?
最近注目されているファミリーオフィスとは、「中世欧州で王の財産管理を執事が手掛けたのが...
- プレミアム・ファミリーオフィス
- 資産運⽤サポート
- 後世まで残す事業承継
- 相続対策