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「家族信託」について

「家族信託」について

先日、家族信託についてご質問をお受けしました。

相談者は、顧問税理士から家族信託を提案されていました。その顧問税理士とは20年来の付き合いになるようですが、最近、降って湧いた様に家族信託を推奨されているようです。今回は、家族信託というものの位置づけについてのご質問でした。

相談者の属性は以下の通りです。
・年齢68歳
・相続人は長男、二男の二人
・東京都内でマンション2棟と駐車場3か所保有
・駐車場にマンションを建てるかどうか検討中

家族信託は相続対策よりも重要な認知症対策

この前提を受けて、一番最初に家族信託は相続対策よりも重要な認知症対策です!とお伝えしました。

家族信託は2014年ごろから税理士、司法書士、不動産関係者を中心に提案がされるようになりました。
その目的は「認知症対策」です。

認知症になると財産の処分ができなくなるためにその対策として家族信託が活用されます。
「ああ、認知症対策ね」と簡単に思われるかもしれませんが、認知症対策をしていなければ資産家の方にとっては死活問題になる可能性があります。
なぜなら、相続対策が出来なくなるからです。
相続対策として「分割対策、納税資金対策、節税対策」の3つの対策をセットで検討するのが重要だと言われますが、財産を保有する方が認知症になってしまうと節税対策だけでなく分割対策も納税資金対策もできなくなってしまいます。

認知症になった際の問題点

それでは、認知症になってしまった場合、何が問題になるかと言うと具体的には以下のようなことができなくなります。

・銀行で預金が引き出せない
・証券会社に預けている株式、債券等が売れない。
・不動産が売れない
・法律行為ができない(遺言が書けない。子供に贈与ができない。売買契約ができない等)

具体的に実例をあげると、
「認知症になった親の介護費用を捻出するために、子供が親の居住財産を売却しようとしたが、どの不動産屋さんにも応じてもらえなかった。」
「親が認知症になり株式の管理ができなくなったため、すべて売却しようと子供が証券会社に連絡したが親本人でないために断られた。」

認知症対策としての成年後見制度

では認知症対策として選択肢はないのかどうか?というと成年後見制度があげられます。
ただし、昨今、後見制度の使い勝手の悪さが指摘されています。
というのも居住用財産は売却するのが難しいことがあげられますが、居住用財産だけでなく被後見人の財産構成を安易に変えることが難しいというのが実状です。相続対策はまずできません。
加えて売却できたとしても売却までに時間がかかりすぎるということも挙げられます。

そこで認知症対策として家族信託が脚光を浴びることになりました。
家族信託は「簡単、お手軽、低コスト」のような感じで喧伝され、主に地主さんを対象に提案されてきました。
信託についての詳細を説明する前に家族信託を初めて聞かれた方からよく出る疑問点を以下お伝えします。

信託とは?

「信託とは?」というと財産管理の一種です。

誰かに財産を「信じて託す」、文字通り信託です。誰かにある財産を信託し管理を行ってもらうということです。
誰に財産を託すのか?託す相手により商事信託と民事信託・家族信託と言う様に別れます(家族信託は大きな枠組みとして民事信託とも言われます)。

国から免許・登録された信託銀行・信託会社が業として(営利目的のため)引き受ける信託を商事信託と言います。
商事信託と異なり、業ではなく(営利のためでなく)家族だけで取り組む信託を民事信託・家族信託と言います。

商事信託でなく民事信託・家族信託で信託を取り組む理由として、信託銀行や信託会社は数千万円程度の信託に応じてくれません。特にオーダーメイドで臨機応変に財産管理しようとする信託になるとなおさらです。費用対効果に見合わないからです。
信託銀行・信託会社に依頼せず、信託法に則り家族で財産管理を行おうという動きが民事信託・家族信託組成の動きにつながっています。

遺言信託

その他、信託銀行で「遺言信託」というサービスが扱われていますが、遺言信託は信託銀行が財産管理をしてくれる訳ではありません。信託銀行が遺言を準備させ、相続発生時に遺言執行、名義変更手続き等の遺産整理業務を行う一連のサービスを「遺言信託」と名付けて展開しています。従って遺言信託は財産管理としての信託とは全く別物と考えてください。

以上が信託についての詳細を説明する前によく出る疑問点です。

次に、信託銀行との取引もなく、信託を初めて利用される方、押さえておくべき信託の基本な何かをお伝えしていきます。ちなみに、信託については馴染みが深い人のほうが少ないことが普通です。それでは、「信託」の要点についてお伝えします。

信託の基本

まず信託の登場人物は委託者、受託者、受益者の三者です。
委託者は信託という財産管理を依頼する人。
受託者は信託の受け手で信託された財産を管理する人。
受益者は信託した財産から発生する利益・収益・配当等を享受する人です。

もっと端的に言うと
委託者は財産を「預ける人」。
受託者は財産を「預かる人」。
受益者は「利益をもらう人」です。

ちなみに商事信託では受託者は信託銀行・信託会社になります。
民事信託・家族信託では受託者は長男・二男等の親族になります

以上の登場人物を踏まえて「信託」を一文で説明すると
「『信託』とは委託者から財産を託された受託者が、受益者のために、信託契約に則り、財産を管理する制度」です。

認知症対策の具体的なケース

それでは、信託がなぜ認知症対策となるのかを保有する駐車場を信託するケースでご説明します。

委託者は駐車場所有者である親。
受託者は長男
受益者も親。

受託者が長男以外の子供になるかもしれませんが、上記が認知症対策としての家族信託の典型例です。
ここで補足ですが、信託の登場人物は三者と説明しましたが、このケースでは委託者自らが受益者となっているために登場人物は親と長男の二者となります(このように委託者=受益者になる、つまり委託者が信託することで自ら利益を享受する受益者となる信託を自益信託といいます。ちなみに委託者≠受益者の場合は委託者とは異なる人が利益を享受するため他益信託といいます)。

これは、信託ならではの特筆すべき特徴です。私はいつもこの点だけを押さえておけばほとんどの信託スキームが理解できますと力説しています。
「信託」の最大の特徴は信託契約を締結すると、所有権が委託者から受託者に移転する点です!
信託された駐車場の名義は親(委託者)から長男(受託者)に変わるということです。もちろん駐車場の登記簿は親(委託者)から長男(受託者)に移転登記されます。

名義が変るということはどういうことでしょうか。
信託契約後、駐車場は長男(受託者)に帰属しますので、親が認知症になっても関係なく、受託者である長男が自分の所有物として、長男自身(受託者)の判断で駐車場にマンションを建てることができます。もちろん、長男(受託者)の判断で駐車場の売却も可能です。

つまり、駐車場を信託財産とすることで親が認知症になっても駐車場にマンションを建てることが可能となり、ここに信託が認知症対策として活用される理由があります。
但し、名義が長男(受託者)に移ったからといって長男(受託者)はフリーに何でも出来る訳ではありません。長男(受託者)は信託契約書に記載されたルールに従って、受益者(親)のために駐車場を管理することになります。

まだある家族信託が使われる理由

ここで駐車場の名義が変わると、課税関係が発生するのでは?と思われるかもしれません。
例えば名義を移転させる選択肢として親から長男への贈与や譲渡が考えられます。
長男に贈与すると贈与税がかかりますし、譲渡すると譲渡税がかかります。
贈与や譲渡が認知症対策として使われないのは新たに課税関係が生じてしまうためです。
しかし、信託の場合、親から長男に名義こそ移転しますが、この点だけに着目して課税関係が生じる訳ではなく、受益者が誰になるかで判断します。親(委託者)が自分の駐車場を信託して、自らが受益者となることで(委託者=受益者。つまり自益信託)、経済的価値は特に移転しているとみなされず課税関係は生じません。
加えて、経済的価値は移転していませんので、駐車場からの収益も信託する前と変わりなく親(受益者)の所得となります。

信託財産の名義は受託者名義にもかかわらず、信託財産からの利益は受益者に帰属します。いいかえれば、信託財産は法的には受託者に帰属しますが、経済的には受益者に帰属します。
以上のようなことが信託を難しくしている所以です。

認知症対策として家族信託の活用メリット

認知症対策として信託を活用するメリットは以下の通りです。
委託者:親 受託者:長男 受益者:親 とした場合
・名義が長男に移転するために親の認知症後は長男の判断で駐車場の売買やマンションの建設が可能となる
・委託者=受益者であれば新たな課税関係が生じないためスキーム構築しやすい
・信託契約後も以前と変わりなく、信託した財産から発生する収益・配当等は親(受益者)に帰属するために親自身も取り組みやすい。

駐車場にマンションを建てるかどうかを検討中とのことですが、その決断をする前に判断能力が低下してマンション建設ができなくなってしまう回避策として顧問税理士は家族信託を提案しているのだと推察します。

信託はとっつきにくさはあるのですが上記活用メリットでもあげさせていただいたように使い勝手の良さはありますので、検討してみても良いのではないかと思います。

まとめ

今や相続対策よりも資産凍結を回避するための認知症対策を欠くことはできません。認知症対策として家族信託は使い勝手もよく、前向きに検討してみる価値は十分にあるとおもいます。

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