半導体製造の工程は、ウェーハ上に電子回路を形成する「前工程」と、完成したウェーハを個々のチップに分割し、外部と接続するための電極や配線を備えた基板上に固定し、外部からの衝撃やホコリから保護するために樹脂などで封止して実際にプリント基板などに取り付けられるICパッケージの形にし、テストを行う「後工程」に大別されます。前回は前工程における日本企業の活躍について述べましたが、今回は後工程に焦点を当て、その各段階で日本企業が発揮する技術力と世界への貢献について探っていきます。
後工程の流れ
出典:一般社団法人 日本半導体製造装置協会
出典:Semiconductor Equipment and Materials International
1. ウェーハ検査
前工程が完了したウェーハは、後工程に移される前に検査が行われます。この工程では、オランダの ASML や日立ハイテク などが高度な検査装置を提供しています。日立ハイテクは、ウェーハ表面の欠陥や異物を高速で検出する装置を開発し、品質管理に大きく貢献しています。
2. ダイシング
検査を通過したウェーハは、次にダイシング工程へと進みます。ここでは、ウェーハを個々のチップに切り分ける作業が行われます。この工程で活躍するのが、ディスコ と東京精密 です。両社は高精度のダイシング装置を製造し、世界市場で高いシェアを誇ります。特にディスコは、薄型ウェーハの切断技術に強みを持ち、業界をリードしています。
3. パッケージング
切り出されたチップは、パッケージと呼ばれる保護材で覆われ、外部との電気的な接続が可能な状態になります。イビデン、新光電気工業などの日本企業が、高度なパッケージング技術を提供しています。イビデンは、 高密度実装を可能にする基板で世界トップクラスのシェアを誇り、5G 時代の高速通信を支えています。新光電気工業は、最先端のフリップチップ・パッケージで業界をリードしています。
4. 検査
パッケージングされたチップは最終検査を経て、製品として出荷されます。この検査工程では、米国のテラダインと日本のアドバンテストが二大勢力として君臨しています。アドバンテストは、メモリやSoC(System on Chip)の 検査装置で世界トップクラスのシェアを誇り、高度化する半導体の品質保証に不可欠な役割を果たしています。
後工程における日本企業の強みと課題
後工程において、日本企業は検査装置やダイシング装置、パッケージング材料などで世界をリードしています。これらの分野では、日本が得意とする精密加工技術や材料技術が存分に活かされており、高品質な製品を安定的に供給することで、世界の半導体産業を支えているのです。
また、半導体製造において新たな差別化できる領域として後工程のパッケージング技術が注目されています。半導体アナリストに中には、これからは、パッケージング技術がこれから半導体製造の中心になっていくというコメントも聞かれます。日本はこの分野を得意としリードしてますが、日本はこの戦いを勝ち抜くことができるのでしょうか。
後工程は労働集約的な性格が強く、人件費の安い東南アジア諸国に生 産拠点が移転する傾向にあります。日本企業は、自動化技術の高度化などを通じて競争力を維持する必要に迫られています。また、先端パッケージの開発競争も激化しており、日本勢は米国や台湾、韓国のライバルとのさらなる技術開発競争を強いられています。
今後の展望
IoT、AI、5G など、デジタル技術の進展に伴い、半導体への需要は今後ますます高まるでしょう。後工程を担う日本企業は、この需要に応えるべく、技術革新と生産性向上に努めていく必要があります。
特に、先端パッケージ技術は重要な競争領域となっています。2.5D や 3D といった立体的な実装技術、チップレット化など、日本企業のイノベーションが期待されるところです。また、検査技術の高度化も欠かせません。アドバンテストなどは、AI 技術を活用した新たな検査手法の開発を進めており、その動向が注目されます。
加えて、日本企業は材料分野での強みを活かし、パッケージ基板や封止材などの開発にも注力していくべきでしょう。素材の革新が新たなパッケージング技術を生み出す鍵となるからです。
半導体産業はグローバルなサプライチェーンの中で成り立っており、日本企業は海外企業との連携を一層深めていく必要もあります。特に、台湾や韓国、中国の企業とは、競争と協調のバランスを取りながら、Win-Winの関係を築いていくことが求められます。
まとめ
半導体製造の後工程は、日本企業が世界に誇る「高品質・高精度」の技術力が存分に発揮される舞台です。検査装置やダイシング装置、パッケージング材料などで、日本勢は確固たる地位を築いてきました。
しかし、技術革新のスピードが加速し、競争環境も激化する中、日本企業は新たな競争優位の確立を迫られています。イノベーションを起こし続ける力、グローバルな連携を深める力が、今まさに問われているのです。
日本の半導体産業は、前工程と後工程の両面で世界に大きく貢献してきました。その実力は今も健在です。変化の時代にあって、日本企業がその力をさらに進化させ、世界の半導体産業をリードし続けていくことが大いに期待されます。