【第3回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程①前工程。日本企業の将来は?今後の展望〜

【第3回】半導体銘柄への投資戦略 〜半導体の製造工程①前工程。日本企業の将来は?今後の展望〜

半導体は現代社会のあらゆる分野で重要な役割を果たしており、その複雑かつ高度な製造工程は、現代のテクノロジーの基盤となっています。半導体の製造は主に「前工程」と「後工程」の2つに分けることができ、前工程ではシリコンから作られたウェーハと呼ばれる基板上に数百個の半導体が並んだLSI(大規模集積回路)を作ります。ちなみに、後工程では、ウェーハを切って半導体を切り分け、切り分けた半導体を固定して端子をつけたり、樹脂で覆ったりして半導体を完成させる工程です。

興味深いことに、この半導体製造の各工程において、日本企業が世界をリードする存在となっていることをご存知でしょうか?日本は半導体の「部素材」において世界シェアの約半分を占め、製造装置でも3割を超えるシェアを誇ります。特に、材料の分野では日本企業が他の追随を許さない競争力を有しているのです。

 前工程の流れ

それでは、前工程の各段階と、日本企業の優位性について掘り下げていきましょう。

出典:一般社団法人 日本半導体製造装置協会

マスク製造工程

出典:Semiconductor Equipment and Materials International

半導体製造の最初のステップは、回路やパターンの設計から始まります。設計に基づいてフォトマスクが作成され、これが後の露光工程で重要な役割を果たします。フォトマスクの開発・製造では、レーザーテック(6920)、HOYA (7741)などの日本企業が世界をリードしており、*EUVマスクブランクスは、AGC(5201)などの企業が先進技術で業界を牽引しています。

*EUVマスクブランクスとは、半導体の回路パターンを半導体ウエハーに転写する際の原版となる材料のことです。EUVを用いると回路の線幅を従来より細くすることができるため、データの大容量化や高集積化に対応する技術とされています。通信規格「5G」や人工知能(AI)の広がりで製品の需要が確実に増えています。

ウェーハ製造工程

フォトマスクに続いて、シリコンインゴットの切断が行われます。この工程では、信越化学工業(4063)や SUMCO(3436)などの日本企業が世界トップクラスの技術力を発揮しています。彼らは高純度のシリコン結晶を育成し、それを切断してシリコンウェーハを製造します。ウェーハの研磨も日本企業が担っており、フジミインコーポレーテッド(5384)などがその分野で事業を展開しています。

前工程(ウェーハ処理)

出典:Semiconductor Equipment and Materials International

ウェーハが準備できたら、いよいよ前工程の本番です。ウェーハ表面の酸化処理を行った後、*成膜形成が行われます。成膜装置では米アプライド・マテリアルズ(AMAT)や東京エレクトロン(8035)が強い存在感を示しています。特に東京エレクトロンは、レジストを塗布する「コータ」や露光したレジストを現像する「デベロッパー」において、世界シェアの 9 割を占める圧倒的な強さを誇ります。

*成膜工程とは、半導体の材料であるウェーハに非常に薄い膜を形成する工程です。 形成される膜としては、電気を通したり、通さなかったりといった性質に関与します。

続いて、フォトレジストをウェーハ上に塗布し、オランダの ASML や日本のキャノン(7751)、ニコン(7731)などの大手メーカーの露光装置を用いて回路パターンを転写します。ニコンは「史上最も精密な機械」とも称される露光装置の製造で重要な役割を担っています。

パターンが転写されたら、エッチング装置を用いて不要な部分を削り取ります。この工程でも、米アプライド・マテリアルズや東京エレクトロンなどの大手メーカーが活躍します。その後、レジストを剥離し、ウェーハを洗浄して平坦化処理を行います。

以上の工程を繰り返すことで、トランジスタや配線などが何層にもわたって形成され、複雑な電子回路が作り上げられていくのです。

 日本企業の優位性と今後の展望

半導体の製造過程は、初めての方には少し難しいかと思います。ただ、日本企業は、半導体製造の前工程において、特に材料や製造装置の分野で非常に高い技術力と競争力を有してことを知っていただくことが大変重要です。しかし、韓国や台湾、中国などのアジア諸国も急速に力をつけてきており、日本の優位性は挑戦を受けています。

今後、日本企業が競争力を維持していくためには、EUV露光などの最先端技術への対応が求められます。また、材料開発をさらに深掘りし、新たなイノベーションを生み出す必要性も高まっています。日本政府もこうした状況を鑑みて「半導体戦略」を打ち出し、製造装置・素材産業の強みを活かした戦略的な取り組みを推進しています。

一方で、米中の技術覇権争いを背景に、サプライチェーンの再編も進んでいます。日本企業は同盟国との連携を強化しつつ、付加価値の高い技術や製品の開発に注力していくことが求められます。

半導体産業は技術革新のスピードが速く、市場環境も常に変化していくため、日本企業は既存の強みを活かしつつ、新たな競争優位を確立していく必要性に迫られています。材料や装置メーカーとデバイスメーカーとの協業も一層重要となり、その連携がイノベーションの鍵を握るでしょう。

日本の半導体産業は今、岐路に立っています。しかし、日本企業は引き続きイノベーションを起こす力が健在であり、その動向が今後も世界市場に大きな影響を与えるでしょう。半導体は日本の「最強技術」の結晶であり、その復活は日本経済全体の活性化にもつながるのです。

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