金は古くから価値の尺度として用いられてきた資産であり、現代においても重要な役割を果たしています。そして、世界の富裕層やファミリーオフィス(超富裕層や富裕層の家族や一族の資産を管理・運用するために設立されたプライベートな組織や事務所)が、ポートフォリオに必ず金(GOLD)を組み入れる理由をご存知でしょうか。本記事では、金という資産の特徴や、ポートフォリオに組み入れるメリットについて詳しく解説します。
[ 目次 ]
金(ゴールド)の価格が大幅に上昇にしており、ニューヨーク金先物(中心限月)は史上最高値圏の1トロイオンス=2,300米ドル近辺で推移しています。この背景には、米連邦準備理事会(FRB)による金融政策転換への期待と米インフレの再燃など、様々な要因が複雑に絡み合っています。
金は他のコモディティとは異なり、産業用よりも宝飾品や投資目的としての需要が大きいという特徴があり、無国籍の「通貨」としての顔も持ちます。そして、足元の金価格上昇の理由の一つは、FRBによる利下げ期待です。金は利息や配当がないので、金利が低下する局面では投資先としての相対的な魅力度が増し、価格が上昇する傾向があります。
一方で、米国ではインフレ再燃への警戒感が高まっており、インフレに強い金への需要が高まっています。FRBによる利下げ開始が遠のくとの見方も強まる中、いくつかの要因が同時に金価格を押し上げることで、金価格は上昇しやすい環境にあると言えるでしょう。
さらに、長期的な金価格上昇に影響を与えているのが、各国の中央銀行による金の購入です。特に米ドルへの傾斜を嫌うロシアや中国などの新興国で、外貨準備のリスク分散を目的とした金の保有が顕著となっています。国際社会の分断や亀裂とも無縁ではなく、皮肉にも金の魅力を高める結果となっています。
ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2023年第4四半期の金の需要は中央銀行による購入により増加しました。その結果、世界の公的金準備は229トン増加し、年間の正味需要は1,037トンとなりました。前年の記録である1,082トンにはわずかに届きませんでしたが、中央銀行が金の需要の主な原動力であり続けていることは明らかです。現在、世界の公的セクターが保有する金準備は合計36,700トンと推定されています。
また、金価格に連動する上場投資信託(ETF)の普及も見逃せません。ETFは保管の手間がなく、気軽に金投資ができる手段として人気を集め、金の需給面での価格上昇圧力となっています。ここ数年は世界的な金利上昇に伴い、ETFからは資金流出傾向が強まっていましたが、FRBによる利下げが視野に入ると、資金流入に転じる可能性が高く、需給面での価格上昇圧力はさらに強まるかもしれません。
加えて、足元の地政学リスクの高まりも金のニーズを高めています。ロシアによるウクライナ侵攻などによる地政学的な緊張の高まりは、「有事の金」としての金の需要を高めています。「有事の金」とは、地政学的リスクや経済的な不確実性が高まる時期に、投資家が安全資産として金を購入する現象です。
金はその希少性と化学的な安定性から、価値を長期にわたって保存する手段として注目されてきました。埋蔵量の限られた金は、数千年の時を経ても酸化や腐食に強く、輝きを失わないからです。
世界中で取引される金は、ロンドン、ニューヨーク、東京などの主要都市で需給バランスによって価格が決まり、米ドル建てで取引されます。また、金は株式や債券とは異なる値動きを示す傾向があり、リスクを抑えながらリターンを安定させる効果が期待できます。ただし、金価格は政治や経済の動向にも影響されるため、リスクを完全に排除することはできない点に注意が必要です。
金価格の動きには、いくつかの特徴があります。
第一に、金は安全資産と見なされているため、地政学的リスクや経済的な不確実性が高まる時期には、多くの投資家がリスク資産を避け、金に資金を移動させます。その結果、金の需要が高まり、価格が上昇する傾向があります。
第二に、金は利息を生まない資産なので、債券利回りの動向に影響を受けやすいという特徴があります。債券利回りが上昇すると、利息収入を求める投資家が金から債券に資金をシフトさせるため、金価格は下落しやすくなります。逆に、債券利回りが低下すると、金の魅力が相対的に高まり、価格が上昇する傾向があります。
第三に、金は実物資産であるため、通貨の価値が下落するインフレ期には強い特性を発揮します。インフレ率が高まると、金は通貨価値の下落をヘッジする手段として注目され、需要が高まることで価格が上昇しやすくなります。
このように、金価格はリスク回避、債券利回り、インフレリスクといった複数の要因が絡み合って変動しています。投資家は、世界経済の動向を注視しつつ、金価格の特性を理解したうえで投資判断を下すことが大切です。
金をポートフォリオに組み入れることで、ポートフォリオ全体のリスクを低減できます。金は株式や債券とは異なる値動きを示すため、ポートフォリオの安定性を高めることができるからです。実際に、金を組み入れたポートフォリオは、組み入れていないポートフォリオに比べて、リターンが改善するだけでなく、ポートフォリオのリスクも抑制されることがバックテストで実証されています。
そのため、ファミリーオフィスにおける資産運用の現場では、金を積極的にポートフォリに組み入れ運用を行っています。
世界的に見ても、金への需要は増加傾向です。中央銀行や機関投資家による金の購入が活発化しており、金価格を下支えしています。また、金ETFの普及により、個人投資家にとっても金投資がより身近なものになっています。
分散投資のメリットはよく知られていますが、市場が不安定になると、多くの資産が同じように動き、分散効果が弱まることがあります。その一方で、金は株式やその他のリスク資産が売られるときに逆の動きをすることが多く、ポートフォリオの損失を抑える効果があります。特に、システミックリスク(金融システム全体や経済全体に重大な影響を及ぼすリスク)が発生したときに金の価値が発揮されやすいです。
さらに、金は投資商品としての側面と消費財としての側面の二つがあります。この二面性が長期的なパフォーマンスに寄与します。特に、所得が増加する時期には、株価が上昇する局面で金の価格も株価と共に上昇しやすくなるのです。
金をポートフォリオに組み入れるタイミングを見極めるためには、以下の点に注目する必要があります。
金は伝統的に「安全資産」とみなされており、景気後退や金融危機などの不確実性が高まる時期には需要が高まる傾向があります。株式市場が下落し、投資家のリスク回避姿勢が強まる環境下では、金への資金シフトが起こりやすくなります。
例えば、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショック時には、金価格が大きく上昇しました。経済の先行きに対する不透明感が強い時期は、金投資に適したタイミングと言えるでしょう。
金は「インフレヘッジ」としての性質を持っています。将来のインフレ率上昇が見込まれる時期には、金需要が高まる傾向があるからです。
中央銀行による金融緩和政策の長期化や、財政赤字の拡大などを背景に、通貨価値の下落とインフレ率の上昇が意識されるようになると、金は資産価値を守るための有力な手段として注目を集めます。
ポートフォリオに占める金の割合は、投資家のリスク許容度や投資目的によって異なりますが、一般的には、ポートフォリオの5〜10%程度を金に配分することが推奨されています。ただし、インフレリスクが高まっている局面では、金の組入比率を一時的に15%程度まで引き上げることも選択肢の一つです。
金価格は需給や投資家心理などの影響を受けて変動しますが、長期的には上昇トレンドにあります。金価格が割安な水準にあると判断される時期は、ポートフォリオへの組み入れに適したタイミングと言えます。
金の長期間の推移(米ドル建て)
ただし、金価格のボラティリティは比較的高いため、短期的なタイミングを計ることは容易ではありません。金投資は長期投資の視点を持つようにしましょう。
金は株式や債券とは異なる値動きをする傾向があるため、分散投資の観点からポートフォリオに組み入れるメリットがあります。特に、株式市場との逆相関性が指摘されており、株価下落局面では金価格が堅調に推移することが多いです。
ポートフォリオ全体に占める金の割合を維持することで、リスクとリターンのバランスを改善できる可能性があります。世界の富裕層やファミリーオフィスの多くが金投資を行っている理由もここにあります。
金は長期的な資産形成において有用な投資対象ですが、金融市場の環境変化を注視しながら、適切なタイミングでポートフォリオに組み入れていくことが重要と言えるでしょう。
ゴールドを購入する方法はいくつかあり、最も一般的なのは純金積立ですが、手数料が高いというデメリットがあります。現物としてゴールドを持ちたくない場合は、ゴールドのETF(上場投資信託)がおすすめです。
ETFはゴールドの価格に連動するため、ゴールドを保有するのと同じ効果があり、実際にゴールドの在庫も確保されています。もう一つの選択肢は、金鉱山の会社の株を購入し、間接的にゴールドを買う方法です。ゴールドの価値が上がると、これらの会社の価値も上昇しますが、ゴールドの価格変動の2倍程度の変動になることもあります。
金投資には、いくつかのデメリットや注意点があります。まず、金は株式のような配当金や利息がつかず、定期的なキャッシュフローを求める投資家には向きません。また、現物で保有する場合は、盗難や紛失のリスクがあり、強固な鍵や暗証番号つきの金庫、銀行の貸金庫などのセキュリティ対策が必要です。
さらに、金投資には管理コストや取引手数料がかかります。現物投資では金庫の購入や保管サービスを利用するコストが、ETFや投資信託などの金融商品では購入手数料や信託報酬が発生します。これらのコストは投資収益に影響を与えるため、事前に確認することが大切です。
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