世界の株式市場を見渡すと、国によってPER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)の水準に違いが見られます。本記事では、PERとPBRの概念を説明した上で、主要国の株式市場の現状を分析します。株式投資において、PERとPBRは重要な指標となりますので、ぜひ最後までお読みください。
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PER(株価収益率、Price Earnings Ratio)は、企業の株価が1株当たりの純利益(EPS)の何倍で取引されているかを示す重要な投資指標です。具体的には、PERは次のように計算されます。
PERを用いることで、企業の株価が利益水準に対して割高か割安かを判断できます。一般的に、PERが高い場合、企業の将来の成長期待が高いと市場が判断していることを示し、逆にPERが低い場合は、成長期待が低いことを示します。その国や業種の「利益成長率」が高いと予想されれば、その国や業種の株式も相対的に買われて株価も高くなりPERは高くなります。逆に利益成長率が小さいと予想されれば、その業種の株式を積極的に買われることなく、株価も上がらずPERは低く抑えられます。このように、PERの適正な基準は国や業種によって異なるため、同業種間や経営内容が似ている企業間での比較が重要です。
PBR(株価純資産倍率、Price to Book Ratio)は、企業の株価が1株当たりの純資産(BPS)の何倍で取引されているかを示す指標です。PBRは以下のように計算されます。
BPS(1株当たり純資産)は、企業の純資産を発行済株式総数で割ったものです。PBRは、株価が企業の純資産に対して割高か割安かを判断するための指標として用いられます。PBRが低いほど、株価が割安であることを示し、特にPBRが1倍を下回る場合は、企業の純資産に対して株価が低いことを示します。
株価の割安・割高を判断するために用いられるPERとPBRを、主要な株式市場ごとに見てみましょう(2024年3月末時点)。
各国のPERの状況
地域 | 予想PER(12カ月先) | 過去15年間の平均PER |
米国 | 21.0 | 16.1 |
日本 | 15.3 | 14.8 |
欧州 | 13.9 | 12.7 |
新興国 | 12.2 | 11.7 |
アジア(日本除く) | 13.0 | 12.6 |
中国 | 9.3 | 11.3 |
香港 | 11.6 | 15.0 |
インド | 22.4 | 17.9 |
各国のPBRの状況
地域 | 実績PBR(過去12カ月) | 過去15年間の平均PBR |
米国 | 4.6 | 3.0 |
日本 | 1.5 | 1.2 |
欧州 | 2.0 | 1.6 |
新興国 | 1.6 | 1.6 |
アジア(日本除く) | 1.5 | 1.6 |
中国 | 1.1 | 1.7 |
香港 | 0.8 | 1.3 |
インド | 4.0 | 3.0 |
各国のPERとPBRの状況について解説します。
米国株とインド株は、株価の好調さを背景に高いPER(米国株21倍、インド株22.4倍)となっており、過去15年間の平均値を大きく上回っています。これは、高成長が期待される企業が多いことを示していますが、一方で高値警戒感もあります。
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また、米国のPBRも4.6と、過去15年間の平均値3.0を大きく上回っています。これは、企業の資産価値に対して株価が高いことを示しています。インドも同様に、PBRが4.0と高水準にあります。
日本株は2024年の第一四半期に10.1%と高い上昇率となりましたが、予想PERは15.3倍と過去15年間の平均値14.8倍とほぼ同じ水準にとどまっています。これにより、PERからは日本株には割高感がないと判断できます。
PBRに関しても、日本株は1.5倍と過去15年間の平均値1.2倍を上回っていますが、割高感はあまり感じられません。
中国株は予想PERが9.3倍と、過去15年間の平均値11.3倍を下回っており、割安感が際立っています。香港株も同様に予想PERが11.6倍と割安です。この割安感から4月以降、中国・香港株に注目が集まり、香港ハンセン指数は強気相場に突入しました
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また、中国株のPBRは1.1倍、香港株は0.8倍と、いずれも過去15年間の平均値を下回っており、割安と判断できます。
金利とPER(株価収益率)は、密接に関係しています。金利が上昇すると、安全資産である債券の利回りが上がり、リスクの高い株式投資の魅力が相対的に低下します。これは、PERが高い銘柄の投資魅力を減少させます。このため、金利上昇局面では、投資家はより慎重に高PER銘柄への投資を検討する必要があります。
近年、世界各国で金利が上昇していますが、その背景には以下のような要因があります。
第1に、パンデミック後の経済回復が進む中で、各国中央銀行がインフレ抑制のために金利を引き上げていることです。特に、原材料やエネルギー価格の上昇が消費者物価に波及し、高インフレが続いています。
第2に、金融市場の過剰流動性の調整です。中央銀行は、低金利政策と量的緩和で市場に大量の資金を供給してきましたが、これがバブルリスクを引き起こす可能性があるため、金融引き締めを進めています。
第3に、各国の財政政策の影響もあります。財政赤字の拡大に伴い、国債の発行増加が金利上昇の圧力となっています。これらの要因が複合的に作用し、世界各国で金利が上昇しているのです。
そして、金利の上昇局面では、PERが高い銘柄は売られやすくなる傾向があります。その主な理由は、以下の通りです。
1. 金利上昇により、債券などの安全資産の利回りが高まり、リスクの高い株式投資の魅力が相対的に低下するため。
2. PERの逆数である益回り(1株当たり利益 ÷ 株価)と金利との差が広がるため、PERが高いほど投資魅力が低下するため。
PER(株価収益率)の逆数を取ると、益回り(株の利益率)になります。例えば、PERが15倍の株は、益回りが約6.7%です。一方、PERが30倍の株だと、益回りは約3.3%です。
金利が上がると、安全な投資で得られる利回りも上がります。すると、益回りが低い株(PERが高い株)は、金利が高い時に相対的に魅力が減ります。つまり、金利が上昇すると、PERが高い株の投資魅力が低くなるのです。
現在の株式市場では、各国の金利上昇を背景にハイテク株など高PER銘柄の割高感が意識されています。低金利環境では投資家は高いPERを容認してきましたが、金利上昇に伴い、米国株の益回りは低下し、株式の相対的な魅力が減少しているからです。
今後、世界経済が再び低成長に戻る場合、PER上昇が許容されるのは確実に利益を稼ぎ続ける企業だけになる可能性があります。そのため、投資家は企業の収益性を重視しつつ、PBRなど他の株価指標も考慮に入れながら、企業の本質的な価値を見極めることが重要です。
各国のPERとPBRの水準を見ることで、株価の割高・割安を判断する材料となります。特に、米国やインドの株式市場は高PERと高PBRを維持しており成長期待が高い反面、高値警戒感もあります。このような国々は、EPSの成長力に翳りが出てくると高PERを維持することが難しくなるため、期待されている成長率を維持できているかどうか、これが投資判断につながります。
一方、中国や香港の株式市場は、低PERと低PBRで割安感が強く、投資妙味があると考えられます。このような国々は、成長期待が低いため、成長率が上昇軌道に戻るようであれば、低PERを投資家は放置をしません。このように投資家は成長期待の高い市場と割安な市場の両方に目を向けることが重要です。
また、金利上昇局面では、高PER銘柄の投資魅力が低下しやすいため、金利動向も注視する必要があります。また、金利上昇は企業業績を圧迫する可能性もあるため予想EPSの低下にも注意が必要です。今後の市場動向を予測するためには、PERやPBRといった指標だけでなく、経済全体の動きや金利の変化も合わせて考慮することが求められます。
株式投資においては、複数の指標を総合的に判断し、適切な投資判断を下すことが大切です。各国の経済状況や市場の特性を理解し、バランスの取れたポートフォリオを構築することで、リスクを分散しながら安定した投資成果を目指すようにしてください。
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