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家族信託の検討する際の留意点

家族信託の検討する際の留意点

今回は、昨年、家族信託に関して受けたご質問についてのお話です。その方は、昨年、ある不動産会社主催の家族信託セミナーに出席されました。お父様から財産の半分(貸地2ヶ所、マンション12室、預金等)を相続したお母様の判断能力が怪しくなりつつあるためにお母様の財産を動かせなくなってしまう回避策として家族信託をご検討されていました。

そのセミナーでは「家族信託は家族内だけで手軽にできる認知症対策」として説明がありましたが留意点があれば教えていただきたいというご相談です。尚、家族信託契約を実行する際、長男の私が受託者になる予定です。

お一人の主導権に関する留意点

家族信託が認知症になった時の資産凍結回避策だとしても長男様お一人に受託者として主導権を握らせてしまうのは様々な観点から気をつけるべきです。

そこで、お母様に万一あった際に相続人になられる方は他にいらっしゃるのか、また、いらっしゃる場合、家族信託についてご存知か質問してみました。

その質問に対して、お母様の相続が発生した際の相続人は相談者の他に弟と妹がいらっしゃるようです。お母様のご面倒は同居者の相談者が見ており、今回の家族信託はあくまでも認知症対策のために行うので弟や妹は関係ないそうです。 従って弟や妹さんに家族信託のことを相談するつもりはないそうです。

家族信託が将来の争族の火種になることも

このご回答を踏まえると、認知症対策として行ったとしても家族信託が将来の争族の火種になる可能性があります。 お母様(委託者兼受益者)の相続発生時に弟や妹が家族信託について知らなければ揉める可能性があります。

というのも信託は財産の名義自体が相続発生する前から受託者となる長男様に移転する訳ですから弟や妹からすると「おふくろの死ぬ前から兄貴は何をやっていたんだ?」と疑念をいだかせてしまうことになりかねません。 揉めないようにするためには弟や妹と家族信託について共有したほうが得策だと考えます。

他の相続人が家族信託の存在について知らなければ、相続後に揉める確率は高くなります。相続後に家族信託について法定相続人間で揉めてしまい訴訟にまで発展したケースは実際出てきていますし、私に相談依頼があった中でも訴訟に発展しそうな事案が数件あります。

争族になると相続発生後に資産凍結の様な状況になるかもしれず、相続発生前に認知症対策として行った家族信託が仇になってしまいます。 私が応じた相談でも家族信託について不信感を招く原因はほぼ一致していますので、他の相続人と共有せずに受託者のみの判断で家族信託を組成した場合、相続後に信託のどのような点で他の相続人から不信感を招くのか以下に列挙します。 (ご質問いただいた方のケースに置き換えて説明します)

① 家族信託では、信託財産の名義が委託者(母)から受託者(長男)に移転する

⇒受託者(長男)以外の相続人(弟、妹)が、相続発生前に母から長男に名義が移っていることに気付けば猜疑心がめばえます。つまり、「おふくろの死ぬ前から兄貴は何をやっていたんだ?」と言うことになります。 なぜそうなるのかは④の通りです。

② 家族信託では受託者の判断で信託財産を処分できる

⇒受託者(長男)の判断で売買することができるのが信託です。故に認知症対策となる訳ですが、他の相続人(弟、妹)からすると、「母の財産をなぜ兄貴だけの判断で処分したんだ?」ということになりかねません。そこから発展してどういう合理的判断でその財産を処分したのか?という議論になってしまいます。

③ 家族信託では信託財産から発生した収益は受託者が受取るため

⇒信託財産が土地であれば地代、建物であれば賃料、株式であれば配当が発生します。これらの収益は信託財産の名義人である受託者(長男)の口座に振り込まれることになります。その後、収益は受託者(長男)から受益者(母)に交付しますが、交付日や金額が不明瞭だったり、受託者(長男)自身の固有財産との線引きが不透明であれば、受益者(母)の受取るべき金銭を受託者(長男)が自分の為に費消したのではないか等、他の相続人(弟、妹)の不信感を招くことになります。

④ 遺言と違い、ほとんどの人が信託について馴染みもなく全く知識がない

⇒結局、上記①~③は他の相続人(弟、妹)に信託についての知識がないために「兄が遺産分割で抜け駆けするための何か画策があるのでは」と不信感を抱かせてしまうことが分かります。 従って、家族信託を組成する前に、同意が得られなくても他の相続人(弟、妹)と信託の目的や概要を共有しておくことが必要です。

事前に相談する大切さ

相続後に初めて家族信託について聞かされるより、事前に知らされていることで、他の相続人(弟、妹)の不信度合いが少しでも軽減できる可能性があります。 その他、認知症対策を名目にしつつ、高齢になられた父母の財産を受託者が自分のコントロール下に置くためだけに家族信託を採用したとしか思えないケースも実際見受けられますが言語道断です。 家族信託は決して手軽に出来るものでもなく、事前に相続人間で調整して進めなければ、将来もめごとの火種を作ることになりかねませんので、家族信託を実行する前には他の相続人と共有下さい。

まとめ

認知症対策で家族信託を採用する場合には予め相続人間での調整を行って進めてください。

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