12月米雇用統計は14万人減。今後の市場のリスクが見えてきた。

12月米雇用統計は14万人減。今後の市場のリスクが見えてきた。

超保守的な資産管理チャンネルで配信中

こちらのコラムは、2021年1月11日に作成しています。先週の振り返りと、今週の見通しについてお話をしたいと思います。

盛りだくさんだった先週の経済指標

先週は、米ISM非製造業指数、ISM製造業指数の指標など、経済動向を知る重要な指標があった中、まれにみる、今年の投資へのヒントが隠されていたのではないかと思います。

今回は、2つのポイントに絞ってお話をしていきたいと思います。

まず1つ目は、1月7日木曜日に発表あったFOMCの議事録です。2つ目は、1月8日金曜日に発表あった米国の雇用統計です。この2つのポイントから今後の金融政策と財政政策のヒントが見えてきました。ここからリスクポイントしっかりと把握して、資産運用を行うときにリスクをコントロールしていくこと大切です。

今年は年始の予想よりも相場にすごく動きが出そうな流れになりつつあると個人的には思いますので的確に分析していきたいと思います。

米国雇用統計

最初に金曜日に発表があった雇用統計からです。非農業者部門就業者数は前月比マイナスの14万人減、予想はプラス5万人という予想でしたが、予想を大きく下回るマイナス14万人ということになりました。

コロナ感染者拡大により雇用が減っており、去年の5月以降、コロナショックの後に雇用は徐々に回復してきた中、今回のマイナスは、事前に予想はされていたものの、やっぱりネガティブサプライズということになりました。

一方で、株価にはあまり反応が見られずでした。ということは、雇用統計が悪いことを、補う何かがあったというふうに考えるのが一般的です。雇用統計の詳細を紐解いていくと、その答えがあるかと思います。

市場関係者の解釈

まず、株価が大きく下がらなかった要因としては、12月はマイナス14万人だった一方で、10月、11月の雇用統計の修正が入り、この2カ月を合わせるとざっくりと14万人ぐらいプラス、今月のマイナス分と上方修正分と合わせて、トントンということでそんな悲観するものではない、というように、マーケットコメントが見られました。個人的にはこの解釈はとても都合が良いなぁと思いますが。

雇用統計には、家計調査というものがあります。例えば、失業率や労働参加率などは前月とほぼ変わらなかったので、この家計部門はほぼ材料視されませんでした。

少し気になる平均時給の上昇

私個人として、少し気になるのが平均時給の上昇です。平均時給が前年比で、約5%のプラスになっています。雇用が回復できていない状況で時給だけが伸びているのは、賃金の高い人は一時期的には職業失ったけども、今は高い賃金で職業に就けており、一方で、賃金の低かった人は現在も職を失ったまま、なかなか戻っていないことで平均が上昇しているということを示唆しています。

つまり、低賃金の人は職になかなか戻れなく、高賃金の人は復職できているという結果が平均の賃金上昇というような状況を示していますので、本来であれば生活支援を必要としている人の数が減らない状況だといえます。

26週以上の長期失業者数

その裏付けとして26週以上の長期失業者数は、こちらも7カ月連続で増えているます。具体的には、395万人が26週間仕事を探しているけれど見つかってないというような状況です。

長期失業者が増えるということは、幅広い層まで求職が及んでいないという状況が続いていることを意味しています。本当は職を欲しているけども、なかなか職に就けないという人が、雇用統計以上に増えているという実情を示しているため、結構厳しい雇用統計の内容だったように感じます。

雇用者の職種にもヒントあり

雇用統計を受け、株価が反応しなかったもう一つの背景は何かというと、14万人マイナスになった、そのうちの構成数を見ていく必要があります。

製造業や、物をつくるという職業の人たちは、実は合計8万くらい増えています。一方でサービスに関わる人たちの雇用数が大きく下落しています。しかも中身はまちまちで、小売業は12万増え、専門職も16万人ぐらい増えています。しかし、ホスピタリティサービス、たとえばホテルや旅行などに関連する、レジャーホスピタリティはおおよそ49万人もの人が職を失っていることが分かりました。中身はすごく両極端な状況でした。

雇用統計ウオッチャーのコメントを見ると、コロナ感染拡大の状況さえ落ち着いてくれば、それだけレジャー分野は反動で大きく回復する見込みが高いので、今回の雇用統計は14万人マイナスという結果であっても、あまり心配ないという意見もあります。

期待が高まる追加の経済支援策

もう1つのプラス材料は、今回14万人マイナスなったということで、1月20日からスタートするバイデン政権が雇用環境の悪化を理由に、財政出動、経済支援を行うことが、インセンティブになったということです。

雇用環境が悪いために職を失っている人が、政府から臨時支給などが行われることで生活を当面しのげるという効果が期待できます。だから、雇用統計が悪いということで株式にプラス、というおかしな安心感が市場には蔓延しており、株価が大きく影響してないといえます。

しかし、ここに大きなヒントがあります。今後、コロナ感染者の拡大をしっかりとコントロールできて、しかも、ワクチンの普及によって感染者が減ってくるようなことがあった場合には、雇用統計が大きく改善していくことが分かりました。

もし、雇用が大きく改善すると今までのように積極財政を継続することが、そんなには簡単ではなくなる可能性があります。継続の大義名分を失ってしまうということで、財政出動が期待できなくなるという可能性があるわけです。

ということで、雇用統計がよくなるということは当然、経済にとってはいいことである一方で、財政出動を行うインセンティブにはならない可能性があり、これを市場がどのように受け取るかと考えてみると、昨年から、悪いニュースだからこそ財政出動が行われるというような流れがあるので、雇用統計がよくなり財政出動が伴わないとなるとマーケットは、もしかしたらややリスク(資産価格の変動幅)が大きくなる可能性があるかもしれません。

ということで、これから雇用統計を見ていくときは、悪い数字では財政支援であサポートされるけれど、数字の改善が継続すれば今後は財政のサポートがなくなるということで、マーケットが崩れる可能性があるかもしれないというのが、1つ目の大きなポイントだと思っています。

FOMC議事要旨

2つ目のポイントです。FOMC開催から数週間で議事録が公表されるのですが、今回までの内容は、このような経済状況にある中で、これからも継続して低金利を続けて頑張っていきます、また、少なくとも2023年の末まで低金利政策を継続し、1カ月1,200億ドルの債券の購入を行うことで、市中にお金をばらまいていきますというメッセージをFOMCはコロナショック以降マーケットに発信してきました。

テーパリングのコメント。変化の兆し

このようなこともあり、市場はすごく安定していましたが、今回も同じような内容だろうと安心していた中で、少し含みを持たせる内容に変化していました。今回、テーパリング、つまり景気が回復する局面であれば資金をばらまく量を減らす、つまり国債や債券の月々1,200億ドルの購入を減額していくことを、考えなきゃいけないよねというニュアンスを、一部のメンバーが実は言い始めているようです。

また、コロナ感染の収束が早まって想定以上の景気回復に入った場合には、過度なインフレを起こさないためにも、早めにテーパリングをスタートする必要があるかもしれない、それが2022年か23年かといわれたものが、もしかしたら、年内にもあるかもしれないということを、ほんの一部の人間ではあるんですが言い始めています。

つまり金融政策の低金利政策と量的緩和において、量的緩和を少し早めて修正する可能性があるというメッセージを出してきました。マーケットは、まだあまり警戒していないようですが、こういうコメントがメンバーから出ているということ自体が重要で、今後、もしかしたらこの議論が進む可能性があると警戒すべきです。

2013年、このテーパリングについてバーナンキFRB議長がコメントしたことで、株価が大きく下がった(テーパタントラム)ことがありました。緩和開始は市場関係者は大歓迎でが、縮小するとなるとマーケットが大きく反応するでしょう。

ということで、このFOMCの議事録にあった、今後想定しているよりも早い段階で、量的緩和が縮小し始める可能性があるということが、今回のヒントから分かったということになります。

まとめ

今回の雇用統計からのヒントは、ワクチンが普及することによって、コロナが経済に与える影響が限定的になって、経済が思わぬ回復をすると今度は雇用が増えます。それは、レジャー産業のマイナス、49万人のマイナス分がドーンとプラスになれば、雇用が大きく回復し、財政出動をやるという大義名分がなくなってくるので、マーケットにはマイナスになるかもしれないということです。

2つ目のFOMCでいうと、テーパリングを早める可能性がありますよということで、今後マーケットは敏感に反応するようになるでしょう。

今週の注目ポイント

今週以降のリスクの見通しは、今度の木曜日にFRBのパウエル議長が大学のオンラインセミナーに出席して、コメントをする機会があります。もしもテーパリングや金利動向についてコメントすることがあれば、FOMCや雇用統計の流れとリンクさせて、マーケット反応してくる可能性があります。

この1週間でビットコインが25%下がったり、マーケット少し荒れています。その背景にやはり金利の上昇や、テーパリングの話が出てきたりということが背景だと思います。

今年の年初の想定より多くの材料が市場に出始めていますので、今年スタートしてから2週間はとても濃密なものになっています。気を緩めることなくリスクの芽を見逃すことなく、台頭してくるリスクに応じて、しっかりとポジション調整をしていくことが必要とされます。

引き続き金融政策、財政政策、金利の動向、そういったものに注目してほしいと思います。

続きを読む

「資産を守るために、着実な資産管理を」

ファミリーオフィスドットコムでは無料で⾃信で⾏っていただける資産管理から、
エキスパートによるオーダーメイド型の資産管理まで、様々なサービスを提供しています。

メディアでご紹介いただきました

関連記事

日米金利差が招く円安リスク〜日本経済への影響と日銀の舵取り〜 今後の見通しと注目ポイント

日米金利差が招く円安リスク〜日本経済への影響と日銀の舵取り〜 今後の見通しと注目ポイント

1990年6月以来、34年ぶりの1ドル=154円台に到達した力強い動きが続く米ドル円の今後の見通しは? [ 目 …

原油価格の高騰がインフレ再燃の引き金に?米国経済への影響は

原油価格の高騰がインフレ再燃の引き金に?米国経済への影響は

原油価格が再び上昇傾向にあり、米国を中心にインフレ再燃への懸念が高まっています。2022年後半から下落傾向にあ …

【米国株】‌‌米大手金融機関が決算悪化。今後への影響が大きそうだと思われる理由。【4/15 マーケット見通し】

【米国株】‌‌米大手金融機関が決算悪化。今後への影響が大きそうだと思われる理由。【4/15 マーケット見通し】

12日からアメリカの決算発表がスタートし、アメリカのJPモルガン、シティグループ、ウェルズ・ファーゴなど大手金 …

金価格が史上最高値を更新!急騰の背景と今後の見通しを解説

金価格が史上最高値を更新!急騰の背景と今後の見通しを解説

金(ゴールド)の国際価格が急上昇し、1トロイオンスあたり2,300ドルを超える史上最高値を記録しました。金は従 …

日経VI:今後の日経平均や株式市場への影響と注意点

日経VI:今後の日経平均や株式市場への影響と注意点

最近、中東情勢の緊張と原油価格の上昇によってリスクオフムードが高まり、日経平均ボラティリティ・インデックス(日 …

【米国株】‌今週末から米国企業決算が本格的にスタート。S&P500の現状分析と注目点。【4/8 マーケット見通し】

【米国株】‌今週末から米国企業決算が本格的にスタート。S&P500の現状分析と注目点。【4/8 マーケット見通し】

本日のテーマは米国株です。12日から米国金融機関を中心に、2024年度第1Qの決算発表がスタートします。 今年 …

【2024年最新】NISA口座開設・利用状況から見える投資家動向 

【2024年最新】NISA口座開設・利用状況から見える投資家動向 

2024年に入ってから、NISA(少額投資非課税制度)の利用が大幅に拡大しました。本記事ではまず、NISA口座 …

バブル期の高値を更新し、44%の上昇率を記録した日経平均株価:2023年度のマーケットを振り返る

バブル期の高値を更新し、44%の上昇率を記録した日経平均株価:2023年度のマーケットを振り返る

2024年4月から新年度に入りました。2023年度のマーケットを振り返ると、改めて日本の株式市場は記録的な1年 …

【米国株投資】‌なぜ今年は米国小型株に注目する人が多いのか?【4/1 マーケット見通し】

【米国株投資】‌なぜ今年は米国小型株に注目する人が多いのか?【4/1 マーケット見通し】

本日は、米国株投資を取り上げます。今年に入り、米国小型株、ラッセル2000に注目する人が増えています。最近は、 …

【米国債券投資】‌6月利下げの可能性が高まる中、利下げ開始後の債券ETF投資戦略について【3/25 マーケット見通し】

【米国債券投資】‌6月利下げの可能性が高まる中、利下げ開始後の債券ETF投資戦略について【3/25 マーケット見通し】

先週のFOMCを受け、6月の利上げ可能性が高まってきました。その影響で、今後の長期金利低下などが期待される中で …

【米国株】‌いよいよ米国経済に変調の兆し。3月FOMCが米国株へ与える影響に注意【3/18 マーケット見通し】

【米国株】‌いよいよ米国経済に変調の兆し。3月FOMCが米国株へ与える影響に注意【3/18 マーケット見通し】

先週の経済指標のいくつかは、アメリカの経済に、いよいよ変調の兆しがありと考えさせられるものでした。本日は、先週 …

【米国株】‌米国の雇用は本当に強いのか?それとも弱いのか?株価に与える影響大【3/11 マーケット見通し】

【米国株】‌米国の雇用は本当に強いのか?それとも弱いのか?株価に与える影響大【3/11 マーケット見通し】

先週金曜日、アメリカの雇用統計が発表されました。それ以外にも、先週は、JOLTSやISM非製造業の雇用など、雇 …

【米国株】‌堅調な米国株式相場。目先の市場リスク要因は?【3/4 マーケット見通し】

【米国株】‌堅調な米国株式相場。目先の市場リスク要因は?【3/4 マーケット見通し】

本日は堅調に推移する米国株式市場ですが、目先にある市場リスクについて考えてみたいと思います。 先週までの企業決 …

【米国REIT】‌商業不動産への懸念がある中、今後の米REITの見通しについて【2/26マーケット見通し】

【米国REIT】‌商業不動産への懸念がある中、今後の米REITの見通しについて【2/26マーケット見通し】

本日は、米国REITを取り上げます。ここ最近はアメリカの株式市場が強く、債券やREITへの注目が薄れがちです。 …

【米国株】‌米国投資家が2024年に債券投資を検討しておくべき理由【2/19 マーケット見通し】

【米国株】‌米国投資家が2024年に債券投資を検討しておくべき理由【2/19 マーケット見通し】

本日のテーマは、『米国株投資家が2024年に米国債投資を検討しておくべき理由』です。 昨年から今年にかけて、米 …

おすすめ記事